死ねばいいのに03
「死ねばいいのに?」
神威の唇から零れた不穏な言葉に、阿伏兎は何とも似合わない台詞だとしみじみと感じた。
きっと彼が自分の意思でこの言葉を口にすることはないだろう。死ねばいい、などと願うよりも前に、それを実行に移しているだろうから。
「ああ。仏頂面でそう言ってたぜ。殺気ダダ漏れにしながらな」
先ほどの一件についてである。なにか機嫌悪い? と聞かれたので、事の次第を簡単に報告したわけだが、神威は聞くなり腕を組んで考え込んでしまった。
「困るなぁ」
「なにが」
「変にちょっかい出されるのもね」
「ああ」
ちゃんと高杉に釘は刺したつもりだが、素直に聞くような人間に見えないし、の方もあれで直情型だ。高杉に向けて殺気をガンガン放っていると言うのを想像して、面白くない気分になった。
「心配しなくても、勝手にドンパチやり始めたりしないだろ。単純だが、それなりに考えては、」
「違うよ」
阿伏兎の声を遮る不機嫌そうな声音。
ここに来て、阿伏兎はようやく神威の不機嫌な理由を知る。
てっきりが神威を差し置いて勝手に高杉と戦う事に不満を感じているのかと思いきや、そうではなく単に高杉に構うのが気に入らないのだ。
なんとも可愛らしい嫉妬で――――
呆れ混じりに胸中で呟くが、決して声にはしない。まだ死にたくはない。
「だが、団長。殺気だろ? 殺意だぜ? 殺したいほど憎いんだろ?」
嫉妬するには及ばない、そう伝えたかったのだが、神威はかぶりを振って、違うよと真っ向から否定した。
「殺意を抱くって言うのは、殺したいほどそいつの事ばっかり考えてるってこと。なんだか悔しいじゃない」
「……じゃあ、なにか? 団長様はそれ以上の殺意をに向けられたいのか?」
「むしろ誰も殺させたくないね。が殺していいのは世界で俺だけだ」
「……さいですか」
淡々と桁外れの嫉妬を口にする神威に、阿伏兎はただ呆れてしまった。
殺意と破壊衝動と愛情が混線している神威の脳裏では、これは至極もっともな考えなのだろう。死は受ける側も与える側も、最大限に相手を束縛する最高の愛情表現だとでも思っているのかもしれない。
だから、「死ねばいいのに」などという暴言は、神威にとって最悪な言葉だ。ずっと殺意という感情に焦がれながら、最後の一線は越えない片思いのような関係を続ける事を意味しているのだから。
「使う相手を間違えてるよね」
と、至極まじめな顔で。
「俺に言ってくれればいいのに。そしたら、すごくすごく愛してあげるのに」
くすくすと黒い笑みを浮かべて口にした愛と言う言葉に、阿伏兎は肝を冷やした。
どんな破壊と暴力に彩られているかは知らないが、それはきっと直情的で、純粋で、膨大で、一途で、抗うことを許さず、猶予も与えず、容赦のない、絶対的な愛情なのだろう。
片や殺意を抱き、片や殺人的な愛情を向けられ、なんとも奇妙な三角形が出来上がる。
両手に色男、それは端から見ればきっと何とも羨ましい光景なのだろうが……
難儀だねェ――――
とてものこの先に、ありがちな甘酸っぱい展開や人並みの幸福が待ち受けていると思えない。きっと鮮血と戦塵と途方もなく外れまくった愛情が横たわっているだけで、阿伏兎はの事を不憫に思った。
――――もっとも、命が惜しいから、それは思うだけなのだけれど。
end
殺意にすら嫉妬してしまう神威。
奇妙な三角関係のできあがり。