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!CAUTION!
この話には下品、暴力的な表現が含まれています。
苦手な方はお戻りください。




















「死いいいねええええええ!」
「馬鹿だなぁ。俺にそんな攻撃きかないよ」
 眼前で繰り広げられる壮絶なる死の舞踏。
 の手にしたサブマシンガンが神威の軌跡を追って火を吹く。神威はそれをまるで予知能力でも備えたように軽々と避け、の懐に飛び込んだ。
 容赦なく叩きつけられる拳。みしり、と嫌な音をさせてそれがの腹に埋まる。
 衝撃での身体は跳ね飛ばされたが、その瞬間の懐から無数の刃が放たれた。防御した神威の腕に細いダガーが刺さり、鮮血を飛ばした。
 互いに自分の攻撃の有用性に不適な笑みを浮かべ、どうすれば相手の息の根を止められるか考える。
 その顔は戦闘種族である夜兎らしく凶悪に、禍々しく歪み、阿伏兎の背筋をぞっと凍えさせた。
 だが、阿伏兎にはそれと止める術などなく、それは頭痛や眩暈を通り越して卒倒しそうなほどのストレスを彼に与えたに過ぎなかった。




両手に花03





 意味がわからない、と言うのが正しい感想である。
 事態の中心人物である阿伏兎だが、この現状を正しく把握するには未だ至っていない。
 始まりは、そう――――こうである。
 忘年会で神威と飲み比べをし、泥酔した阿伏兎は自室のベッドの上で目覚めた。そこまでは日常の延長であったはずだが、ベッドの上には全裸の女。しかも見知った娘が恥ずかしそうにはにかみながら、阿伏兎におはようと言った。
 おそらく――――いや、かなり高確率で致してしまったらしい。
 娘は神威の恋人である。寝取った形になる自分は、決死の覚悟で神威にその事を謝罪しに向かった。
 だが、神威は怒るどころか気の抜けたような声で相槌を打つばかりである。そして、自分の事も忘れてしまったのかと問う。振り返った彼の顔は、まるで初夜を迎えた新妻のように初々しい恥じらいを残した桃色に染まっていたのだった。
 事実確認は済ませてはいない――――
 が、ここから導き出される答えはそう多くない。
 つまり……
 俺は両方とヤっちまったって事かぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
 阿伏兎は目の前で血飛沫が上がる殺し合いが繰り広げられているにもかかわらず、がくりと膝を地面に落とした。
 忠誠心と呼ぶには型崩れだが、少なくとも自分は神威の事をそれなりに上司として敬っているつもりだった。だからこそ、そのオンナであるに手を出した事はいくら酔っていたとはいえ信じられないし、衝撃だった。
 だが、女がヤったと言うならばそうなのだろう。大変遺憾ではあるが、それは男として認めざるを得ない。
 だが、神威の事は――――
 いやいやいや、落ち着け阿伏兎。お前はいつからバイになった? そりゃ、団長はキレーな顔してるよ? それこそ一緒に歩いてたら女と間違えられて、ちょっかい出される事なんてたくさんあったよ?
 だけど、オイ! 俺は男だって知ってんじゃねェか!
 つか、付いてんだろ!! 見たんだろ!? ならなんで、そーゆーコトできちゃうワケ? おかしいよね? ね、ね、おかしいよね?
 必死に自我を保つべく自己弁護に回るが、脳裏に浮かぶのは神威の頬を染めた顔ばかり。
 それなりに経験を持つ阿伏兎は一瞬で理解した。あ、これ、マジだわ、と。
 つーことは、なにか? ナニがナニして、ナニしちゃったってコト? 俺、野獣になっちゃったってコト? あ、相手が団長なら襲われたって事も有り得るか。でも、俺がヤッたんだよね? 逆とかないよね? つーことは、やっぱナニがナニして……
 想像力を発揮しすぎて、一気にひどい脱力感に苛まれる。
 一晩で二人。しかも、顔見知り。仲良しバカップルの両方、しかも一人は男と。
 この事実に落ち込まない男がいるならば、ぜひお目にかかってみたいものだと思う。
 しかも何故かその二人はお互いがお互いに阿伏兎と寝た事実を知り、目の前で殺し合いを始めているのだ。
「このっ、浮気者! 大人しく死んで、阿伏兎は私に渡しなさいっ!」
だって俺に隠れてイイコトしたんでしょ? じゃ、公平に生き残ったヤツが阿伏兎の彼女になればいーじゃん」
 ナチュラルに彼女という言葉を出した神威に、阿伏兎はひくっと顔を引きつらせる。
 何はともかくまずは二人の殺し合いを止めなければいけない。自分の不貞が元で二人が殺し合うなど、あってはならないのだ。
「団長! ! やめろ!」
 声を張り上げると銃火と徒手空拳というアンバランスな戦闘を繰り広げていた二人が、ぴたりと動きを止めた。
 愛する阿伏兎に名を呼ばれて、花が綻ぶような愛くるしい笑みを浮かべる。
「待っててね、阿伏兎。今すぐこのピンク兎を殺っちゃうから」
「まだお預けだよ阿伏兎。俺がが倒すまで、いい子で待ってるんだよ?」
 そして、キッと鋭利な刃物のような殺意を互いに向ける。
「だー、待て待て! とりあえず殺り合うな! 落ち着いてこっち来い!」
 阿伏兎に諭され、二人はしぶしぶと構えを解いた。阿伏兎の元に集うと、は阿伏兎の右腕に神威は左腕に、自分の両腕を絡ませる。
「ねー、阿伏兎。コイツ殺しちゃっていいでしょ?」
に俺が殺せるかなぁ?」
「うっさい、馬鹿。ハゲろ。毛根の先から死滅しろ」
 腕を絡ませたままギャンギャンと騒ぐ二人。阿伏兎は頭痛の止まない米神を指先で押さえた。
 見ようによっては両手に花なのだろう。
 は可愛いし、神威のオンナでなければ個人的にぜひ仲良くさせてもらいたいレベルだ。
 神威も男という事を除けば、整った綺麗な顔をしている。女のような甘い顔、中性的な身体つき。それに天性の強さが備わっているのだから、さぞかしモテるのだろう。
 そんな二人に好かれて悪い気はしない。
 アレ? もしかして、これっていわゆるモテキなんじゃね? 俺の人生、春来た? 来ちゃったの、もしかして?
 神威が男であると言うのはとりあえず除外して、うまくハーレム状態でこの場を収められないかと模索する阿伏兎。その傍らで、腕を絡ませた二人は、まだギャンギャンと小競り合いを続けている。
「どっかのハゲと違って俺はハゲないし。ていうか、左半分は俺のだから、そんなに引っ張んないでくんない?」
「あっ、そっちこそ引っ張んないでよ! 右は私のなんだから!」
「だいたいの方は腕が付いてるだけ分量が多いんだから、ちょっとくらい俺に譲ってくれてもいいんじゃないの?」
「自分で腕落としたくせに!」
「俺じゃないよ。やったのは鳳仙の旦那」
「原因を作ったのは神威でしょ?」
 互いに自分の領土を主張するように、阿伏兎の腕を引っ張り合う。
「ちょ、おまっ! 落ち着け! 裂けちゃう! 俺、裂けちゃうから!!」
 阿伏兎が痛みに悲鳴を上げても、二人は引っ張る手を止めない。
「離してよ、バカ! 阿伏兎が裂けちゃう!」
「じゃあ、中身が出たらそれも半分こね。俺、心臓もーらいっ」
「ちょっ、ずるい! じゃあ、私は胃から下全部もらうから!」
「それ不公平だよ。肺は上げるから腸と交換しない? 盲腸と十二指腸はあげるからさ」
「ちょ、ちょちょちょ! グロイから! つうか、俺が死んじまうだろーが!!」
 必死に二人を引き剥がそうとするが、二人の絡みつく力は強固でがっちりと阿伏兎の腕を掴んでいる。
「やめ、裂ける! マジでマジで、裂けるから! おいっ、やめっ……やめろっ!! あぁぁぁああああ!?」
 叫んだ瞬間、どこかでビリッと――――そんな音が聞こえた。




end


モテモテ状態をちょっと嬉しく感じちゃうアブさん。
で、そんな自分に気づいて、軽く自己嫌悪。