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空想略奪愛・嘘





「あいつの目の前で身包み剥いで突っ込んでやったら、どういうツラするかなぁ」
 そんな事を低い声でぽつりと呟いた。
 なァ? と薄笑いを浮かべながら向けられた視線に、は冷ややかな視線をぶつける。
「私が黙って組み伏されると思う?」
 もし高杉が客分として第七師団に迎え入れられていなければ、続けてここで死んでみる? と挑発の文句と共に容赦なく刀を叩き込まれていたところだろう。
 もっとも、叩き込まれたところで容易くやられる高杉ではないが――――それは、さておき。
「いいじゃねぇか、どうせ例え話だ。なァ、どうすると思う?」
 よっぽど暇なのか、それともをからかうのが殊のほか面白いのか、高杉はぷかりと紫煙と共にそんな戯言を吐き出す。
 は相手をするのも面倒くさいとばかりに、知らないよと言い放つとぷいとそっぽを向いた。
 が、
「意外と動じねぇかもな」
「はぁ?」
 すぐさま背けた顔を、正面に戻す。
 反射ではあるが、すぐに高杉の罠にはまったとわかり、は悔しさを噛み締めながらくつくつと忍び笑いを漏らす高杉を睨み付けた。
 だが、聞かずにはいられない。
 色々と常人離れしているのは分かっているが、それでも愛情に似た何かを向けられていると思っているのだ。しかも、けっこう乱暴に。強引に。
 だと言うのに、恋人が目の前で強姦されかけてなぜ平静でいられるのだろう。
「な、なんで、そうなるワケ?」
「興味なかったんじゃねぇのか」
「うるさいな」
 高杉はにやにやと唇に笑みを浮かべながら、の悔しげな表情をたっぷりと堪能するように、時間をかけて紫煙を味わった。
 トン、と灰皿に煙管の先を叩き付けて灰を落とし、の両目を上目遣いに見やる。
「そりゃぁ、あいつ弱い奴に興味はねぇだろ? 自分のオンナだからって、負けた奴に手を貸すか?」
「う……」
 痛いところを突かれ、は低く呻いた。
 確かにその通り。そもそも神威は弱い者には一切興味を持たない。
 それを恋人だからと言って自分の貞操を守れず、地球人相手にいいようにされてしまうに、神威が救いの手を差し伸べるだろうか。
 恋人ならば助けて欲しい――――
 が、ありそうでないような、その可能性を捨てきれないのも事実だ。
 もう少し考えを巡らせれば、殺意を抱く時ほど神威の笑顔が輝く時は無いという事や、まんまと高杉の罠にはまるほど神威も馬鹿ではないという事、そしてそもそもこれが下らぬ例え話である事を思い出していただろう。
 だが、それなりに愛されていると自負していたは、不覚にも高杉の術中にはまり消沈してしまった。
 ふうっと寂しげにため息をつくの顔を、高杉は煙管をくわえながら眺める。
 そもそもこんな下らない戯言をに聞かせたのは、馬鹿が舞い上がっているのがいけ好かなくて、その鬱憤をにぶつけて苛めてやろうと思ったからだ。
 は単純だからすぐ怒るし、すぐ落ち込む。
 それで少しでも、自分が振り回しているような気分を味わおうとしたはずなのに――――思わぬところで、こんな顔を見せ付けられるなんて想定外だ。
 こんな顔が見たかったのではない。
 こんな――――完全な敗北を突き付けられるような顔ではなく……
「なァ、今おまえにキスしたら、どういうツラするかな」
 ぼそりと呟いたその言葉に、は怪訝そうな顔をする。
 それはすぐさま不機嫌に歪み、馬鹿じゃないの? といつもの罵倒が飛んでくる。
 だが、それでいい。
 あんな恋する乙女のような、アホみたいなツラより百倍マシだ。
 高杉はにやりと笑みを浮かべると、のきつく結んだ唇にふと指先をあてた。すぐにそれは振り払われてしまうが、
「俺が一番見たいのはお前の泣きっ面だけどな」
 唖然とした次の瞬間、からかわれたと気づいたは顔を真っ赤にして怒り出し――――
 高杉はそれでいいと独りごちた。




end


神威が惚気っぱなしでイラッと来た高杉先生の逆襲。
……のはずが、思わぬ所でヒロインの切ない顔を見せられて更にイラッ。