阿伏兎が腹黒いです。
苦手な方はお戻りください。
空想奪略愛
団長の目の前でを嬲ってやったら一体どんなツラをするかな――――
やだやだ止めてと泣き叫ぶを殴り飛ばして黙らせて、抵抗する身体を力任せに組み伏したら――――一体、無敵の団長様はどうするだろう?
一番可能性が高いのは、まず笑いながら阿伏兎の顔面に足の爪先を叩き込むこと。驚いて顔を覆った阿伏兎を二度、三度と繰り返し踏み潰し、そしてそのまま血塗れの肉ダルマにするだろう。
うん。ありそうで痛そうだ。
次にありそうなのが、実はまったく動じない。むしろ楽しそうにニヤニヤ笑いながら見ているかもしれない。そもそも彼は弱い奴に興味なんてないのだ。自分の貞操も守れず、阿伏兎に食われるに助け舟を出すかどうか怪しい。
俺に愛されたいなら、自分でどうにかしなよ?
そんな事を、さらりとピンチの恋人に言い放ちそうだ。
おそらく可能性としてこの二つ。どちらにしろ、彼の笑顔を崩す事はないだろう。
では問題を変えて、一方的な陵辱などではなく、と阿伏兎が相思相愛の関係となったら? 彼はどうするだろうか。
そこに至るまでの過程と言うのがなかなか思いつかないが、まあが神威に愛想を尽かすか、ひょんな事から阿伏兎に心を寄せるようになって、自然とお互い好いてしまうという状況だ。
まず、発覚した時点で阿伏兎を殺しに来る。
俺のオンナに手を出すなんて手癖が悪いね? 殺しちゃうぞ――――と、笑顔で告げる姿が容易く想像できた。
仮にそこにが割って入ったとしても、それは益々逆効果。
さくっと阿伏兎の首を胴体から切り離して、後は泣き崩れるを力ずくで自分の元に連れ戻し、手荒い説得――――というか、調教か――――で我が物とするのだろう。
あるいは順序が逆になる可能性もある。まずを取り戻し、その後阿伏兎を殺す。
もしくは、阿伏兎を殺さないという選択肢もあるかもしれない。要はが帰って来さえすればいいのだから、それが本人の意思であろうとなかろうと、とにかくが手元に戻り阿伏兎に絶対的な敗者の屈辱を味合わせれば、命ばかりは勘弁してもらえるかもしれない。
どちらにしろ、潔く身を引いて阿伏兎との仲を仲良く見守ろうなどという、優しい選択は存在しない。
仮に神威がへの執着がなかったとしても、自分を捨てて別の男に走るような女を、神威のプライドが許すはずなどないのだ。
ああ、そうだ。を殺すという可能性を忘れていた。
意外とこれもありそうなのだ。神威のへの愛情があるいにしろないにしろ、裏切り者を彼が許すだろうか。真っ先にの心臓を一突きにするかもしれない。笑顔か、もしくはそれすら浮かばない興味などもはやないと言った顔で。
一番あり得ないのは、彼が激昂すること。落胆すること。破局を嘆き、悲しむこと。
泣く――――? あり得ない。
神威が透明な雫を目から零す姿を想像して、阿伏兎は思わず薄ら笑いを浮かべてしまった。
オイオイ、そうつァなんの冗談だ? 腹でも痛いのか? 取っておいたローストビーフでも食われたのか?
きっとそんな事を言ってしまう。
神威が心を揺るがすはずなどない。たかがオンナ一人のことで、このプライドが高く、傍若無人で、常に自信に満ちた無敵の団長が、揺れる事などあり得ないのだ。
だが――――もし、万が一、彼が我を失うくらいに衝撃を受けるとしたら?
「阿伏兎?」
声をかけられて、阿伏兎は弾かれるように顔を上げた。
の紅玉をはめ込んだような澄んだ瞳が、心配そうな眼差しで自分を見ている。その肩越しに見える神威はむしろその逆で、わずかにしかめられた不機嫌そうな顔をこちらに向けていた。
「どうしたの、お前。独りでにやけたりして気持ち悪い」
と、心無い科白。
どうやらの関心を奪われた事に、団長様はご立腹らしい。
阿伏兎はなんでもねェよ、と手を振ると、と神威を交互に見やって思わず唇の笑みを深めた。
ああ、もし団長の目の前でを嬲ってやったら――――あの澄ましきったお綺麗なツラは、どんな風に歪むのだろう。
我ながら破滅的な発想だと自嘲を漏らしつつ、それでも妄想を止められない。
もし、万に一つでも、神威が怒りに我を忘れたり、それに衝撃を受けるような事があれば――――この化け物のような男に、一瞬でも勝利する事が出来るのではないか。
そんな事を考えて、
「いやなに、アンタらの幸せな未来を想像していたのさ」
阿伏兎の妄想は幕を閉じる。
end
危険な妄想に想いを馳せる。
でも、絶対に実行はしません。
阿伏兎は賢いので。