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問題ない方のみお進みください。
風邪引きサン05
正直に言うと、私は第七師団に配属されてから、ストレスで胃がおかしくなりそうでした。
切って、切って、切りたくて仕方がなかったのです。
なので、外科処置の必要のない患者でも、無理やりオペ室に引っ張ってお腹を開いたりしました。
宇宙最強と名高く、絶滅寸前の夜兎族。
彼らにこうして直に手を触れ、その身体の中を見れるなんて、これは僥倖です。第七師団に来たのも、そういう意味ではとても幸せでした。
でも――――それだけでは、私の知的好奇心は満たされません。
お腹を開いたら閉じなければなりません。血管を切ったり、臓器を摘出したり、心臓を開いてバラバラにして見たり――――そういう事が出来ないのです。
しかも彼らはとても強靭な肉体の持ち主で、ちょっとの切り傷や銃創など自然治癒力で治ってしまうのです。外科的オペが必要な機会など滅多にありません。
とても退屈で仕方ない。
夜兎に触れられると有頂天になったのはほんの初めだけで、その後は唯々、診察室で飼い殺される気分。
いっそ殺されるのを覚悟で逃げ出してみようか。そんな事を思い始めていた頃、私は彼女に出会ったのです。
その日は――――初めて人体を切った日の次くらいに、私にとって特別な日になりました。
診察室を訪れた少女は、透き通るような肌を桃色に紅潮させてケホケホと咳をしていました。病状はただの宇宙風邪でしたが、それは夜兎族のかかるような病ではありませんでした。
いくつか問診を繰り返し、私は彼女が純粋な夜兎族ではない事を知りました。
半分は地球人の血を引き、母親は白兎と呼ばれる人工種の夜兎である事を聞きました。だから彼女の目は紅く、髪は月のような銀なのだと。
白兎について存在は知っていましたが、アンダーグランドの生き物である事から詳しい生態は判っていません。夜兎を品種改良させてという事ですが、種の繁栄に反するようなあの理不尽な闘争心を、どうやって飼いならしたのでしょう。
それに白兎の多くは声帯がないと聞きます。言語とは別の特殊な意思疎通の方法を取るらしいですが、それがどういったものか明かされてはいないのです。
大変な希少種。
しかも、それが他種族とのハーフともなれば、天文学的な数字によって彼女は存在している事になります。
私は胸躍りました。
どう説得したら切らせてもらえるだろう。嫌がられるかしら。だったらいっそ睡眠薬で眠らせて……通常の倍の薬を投与すれば、いくら夜兎でも耐えられないはず。ああ、それよりも最初に血液をもらおうか。血液検査をじっくりしてから、どこをどう切るか計画を立てて――――
彼女が私を呼びました。思考停止してしまった私の事を不審に思ったのでしょう。
先生? と試験管が奏でるようなか細く繊細な声で、あの紅い目が私をじっと見ています。
私は自分の体温がぐんぐん上昇するのを感じました。何も考えられず、彼女の両手を掴んで、
『どうか私にあなたの身体を切――――』
言いかけた瞬間、診察室の自動ドアが開きました。
私は驚いて手を離しましたが、現れた人物はきっとその瞬間を見逃さなかったのでしょう。笑顔を顔に貼り付けながら……、ですが一瞬だけ、私を視線だけで射殺すような目をして、
『先生、なんだって?』
これ以上ないくらい優しさに満ちた顔を彼女に向けたのです。
『ただの風邪だって』
『そう。なら、いいんだけど……』
一瞬、私たちの目が合いました。おそらく彼も私も互いの胸中を、正しく理解したと思います。
しかし、私は彼の行動原理をよく理解していますが、彼はなぜ私の考えている事を理解したのでしょう。私のことなど、一切興味などないでしょうに。
もし、私自身に興味はなくとも、彼女にまつわる全ての事をとても注意深く観察しているのだとしたら、やはり私は彼のそういう箇所には好感が持てます。実に研究者向きの思考と言えるでしょう。
しかし、私の前に立ちふさがるのはよくありません……
これは所謂、ライバルという奴なのでしょうか。私は彼女に対し性的な興味などありませんが、もしこの胸の高鳴りが恋という感情に似ているのなら――――
宇宙最強の男を廃するには、どこをどう切れば良いのでしょう。
end
神威が「先生」と呼んだのはヒロインの前だからです。
ヒロインがいなかったら、敬意を示すような呼び方はたぶんしない。