モブの女の子が出てきます。だいぶ頭のネジが緩い子です。
オリキャラがお嫌いな方はご注意ください。
問題ない方のみお進みください。
私は夜兎族ではありません――――
夜兎族である神威団長が束ねる第七師団の中で、別の天人である団員は私を含めわずかです。
そもそも私は春雨の本部に属していたのですが、ある日、団長と副団長が私の前に現れたのです。
二人は何やらひそひそと、よくは聞こえませんでしたが、これでいい、目も悪そうだし、ヒト型だし、と言った事を話していました。
どうやら私の外見に関わる事のようでしたが、私が眼鏡をかけている事やヒト型の天人である事が、どういう関係があるのか分かりませんでした。
私が戸惑っていると団長はにこりと――――はい、あの殺人的な笑顔です。それで私に笑いかけて、
『ねえ。ここで死ぬのと、うちの団に来るのどっちがいい?』
と、選択肢のない質問をしたのです。
風邪引きサン04
私は昔から天人の身体の構造が知りたくて、独自に研究を続けて来ました。
あらゆる天人を狩って解剖しました。
残酷だとは思いませんでした。これは科学の第一歩。未だ解明されていない謎を解く事は、その種族にとっても価値ある行為であり、その前に犠牲はつきものだからです。
ありとあらゆる種族を切り裂いて、私はたくさんのレポートを書きました。
それが評価される事もあれば、文壇に上る事すら叶わず頭の固い学者達に一刀両断にされる事もありました。
でも私はどちらでもいいのです。
レポートを書くのは、自分の研究を正しく把握しておくためで、それに対する他人の評価などどうでもいいのです。
だから私は切り続けました。
もっともっと、奥の奥まで見たい。皮膚の裏、筋肉の底、内臓の奥深くには、何が埋まっているのか知りたくて。
だから私は春雨に入団したのです。
生物学者の道と迷いましたが、称号を得ればそれが自分の活動の妨げになる事を恐れ、諦めたのです。
犯罪行為に興味はありません。春雨がどんな悪い事をしていても、それは私には関係のない事なのです。
私はただ、切って、直す。それだけです。
おかかえ医師としての役割はそれだけで、その報酬に様々な種族の被検体を用意してもらえます。
退屈な縫合や、診断なんかよりずっと面白い。ずっと有意義で、ずっと価値ある時間。
一ヶ月に一度だけ訪れるその瞬間を、私はとても楽しみにしていました。
それを――――そんな生活を、ある日、二人の夜兎族の男が壊しに来たのです。
神威団長の要求は実に明快でした。第七師団の船医になれ、じゃないと殺す。
そういう分かりやすい話し方をする人は嫌いではありません。とにかく海賊行為を楽しむような天人は、頭が悪くて話がまどろっこしいですから。
ですが、さすがに私もこれには即答出来ませんでした。いえ……答えなど決まっているのですが、驚いてしまったのです。
言う通りにした方がいい。この人はホントのホントにアンタを殺す――――
団長の斜め後ろに控えていた副団長が、混乱する私に理解できるよいう、ゆっくりとした口調でそう言いました。
それでようやく、ああ、私は迷う必要などないのだ、と理解しました。
そうして私は攫われるように、第七師団の船医になったのです。
真夜中に叩き起こされ、急患でもいるのかと思いきや、阿伏兎の表情は複雑そのものだった。
この男はいつもこんな――――困ったような顔をしている、と女は思う。原因は大方想像が付いていたが、余計な事は言わない。深く立ち入るつもりはなかった。
来い、と手短に告げられて、女は白衣をまとって外に出た。
無機質な蛍光灯の灯りが照らす艦内の廊下を、黙って阿伏兎に付いていく。
背の高い彼が早足で歩くので、付いていく方は大変だ。やや小走りになりながら阿伏兎の背を追うと、振り返らないまま、阿伏兎が声をかけてきた。
「アンタの事は知っている。うちにスカウトする時に色々調べさせてもらった」
あの脅迫が夜兎流のスカウトなのかと皮肉交じりに訝りながら、女は黙って聞いていた。
「人体に異常な興味があるんだってな。人を切る手腕もけっこうなモノだって、あんたの元上司が言ってたぜ」
元上司と言われ、女の脳裏にはすぐに顔が浮かび上がらなかった。なんだか頭の悪い男だったな、という事だけ覚えている。
あの種族の天人はもう十分調べたから、特に興味も沸かなかった。だが、いつもうるさくお喋りな男だったから、口を縫合してやったら静かだろうな、それとも声帯を摘出してやろうか……、と何度か夢想した事はある。
「その技術が買われて春雨に来たんだろう? ま、アンタのしてる事は犯罪だからな」
「……違います」
口を挟むつもりはなかったが、つい自分の探究心を貶められたような気がして反論してしまった。
阿伏兎がわずかに眉根を寄せ振り返る。
殺されるかな、と一瞬思ったが、それはまずないだろう。自分がここに来たのは団長たっての要望だ。ならば、完全に団長に頭の上がらない彼が、彼の一存で自分を殺す事は出来ない。
「科学の進歩に貢献するため、崇高な理念に則った行為です。ただの快楽殺人と一緒にしないでください」
自分の命を人質にはっきりそう告げると、阿伏兎はわずかに片眉を上げて見せた。
てっきり理解できないか、馬鹿にされるかと思いきや、阿伏兎はそうか、と短く呟いただけだった。
肩越しに向けた顔を戻し、背中を向けたまま言う。
「ま、俺には学者様の考えてる事なんざ、わかりゃしねェよ」
だがな――――と、わずかな間を空け、告げると。
「アンタにどんな変態的な趣味があろうと、これから診る患者には一切そういう不埒な想いは抱かない事だな」
変態的とはお言葉だが、敢えてそれを咎めはしなかった。
どうでもいい。他人の評価など、意味を為さない。
ただ一つ気になるのは、
「これから診る患者とは?」
尋ねると、ちらりと阿伏兎がこちらを一瞥した。
分かるだろ、と言いたげな――――
「命が惜しいなら変な真似はするな。夜兎が切りたいなら、俺がもっと活きのいいのを仕入れてやる」
いや、とわずかにかぶりを振って。
「むしろうまくやれば、団長がご褒美に用意してくれるかもな」
だから余計な事をするな。わかったな――――?
そう訴える視線を受けて、女はすべてを理解した。
通された部屋は、彼女の宛がわれた診察室や一般団員のそれよりもはるかに絢爛で、部屋の中央には大きな寝台の上で苦しそうに呼吸を繰り返す、夜兎の少女が横たわっていた。
end
悪の組織によくいるマッド・ドクター。
モデルは京極の里村先生。切るの大好き、解剖大好き。