下ネタなのでご注意を。
問題ない方のみお進みください。
風邪引きサン03
神威の奇行の原因は阿伏兎の予想通りだったわけだが、それとこれとは話が別で、やはりイラつくと言う理不尽な理由で、その後三発殴られた。
ぼたぼたと両の鼻腔から鼻血を流しつつ、顔を真っ赤にさせた神威を見下ろす。
阿伏兎ごとき――――と思われるのは大変不本意ではあるが――――に自分の胸中を見破られた悔しさと、子供みたいなジレンマに、いつもの無敵の表情は形無しである。
耳の先まで真っ赤にして、切羽詰った顔で俯いている。
「そんなに我慢できなきゃ、どっかで抜いてくりゃいいじゃねェか」
さらりと言いのけた阿伏兎に、神威は信じられないと言う顔をすると、同時に拳を放っていた。それをパシリと手の平で受け止めて、まあ落ち着け、といなす。
「いやまぁ……俺も男だ、分からんでもない。もし俺にああいう病気のオンナが居たら、アンタと同じ気持ちになってたかもしれない」
「……をいやらしい目で見るな」
拗ねたような顔で呟く神威。そっくりそのまま返してやりたくなった。て言うか、いやらしい目で見ていた自覚があるのか。
「あー、まあ、正直に言う。可愛かった。もともとツラはいいしな。それであんな風に弱ってりゃ、男だったら誰でもぐらって来るよな。そりゃ仕方ねェよ」
神威は何か言いたげにしていたが、言葉には出来ないのか悔しそうに唇を噛み締めていた。
同情などかけるな、と言ったところか。だが、同情のつもりはない。そう思ったのは事実だ。もし本当に自分のオンナだとしたら、特に罪悪感も覚えず襲っていたかもしれない。
「むしろ俺は、アンタが自制した事にオドロキだけどな。てっきり、欲情したらそのまま本能に従うタイプなんだと」
「……どこのサルだよ」
「いやいや、褒めてるんだぜ? 意外と紳士じゃねェか」
本気で感心しているのだが、神威は馬鹿にされたと感じたのか睨むような視線を向けて来た。
が、顔が紅潮しているので大して恐くない。まるでどこかのツンデレ少女のようである。
「で、苦しいならどっかで抜いてくりゃいーだろ。こんな所で壁殴ってないでよォ」
会話を戻すと、再び神威は嫌悪感を露わにした。
「抜くって……どーやって」
ぼそり、と呟いた言葉。まさか自慰の仕方も知らないのかと驚きかけて――――いやいや、ンなはずがない。コイツはある意味、俺より大人でリア充だと思い直す。
「そんなの便所でも自分の部屋ででも適当に」
「……で?」
「ん? ああ、そりゃ何だってかわまねェけど……」
話の流れからすればそうだ。
だが神威はますます顔を不機嫌に歪め、あり得ない、とかぶりを振った。
「あァ?」
「俺、でそーゆー事したくない」
「あ? そりゃ、個人の勝手だろうが……」
普通、他のズリネタ使われる方が、女の身からすれば嫉妬してしまうのではないだろうか。と言うか、何を今更と思う。アンタらもっと過激でエロい事、十分してるでしょうが、と。
「じゃあ、オンナでも買うか?」
そっちの方が抵抗が強いに違いまい。神威はふざけるな、と物凄い目で睨みつけて来た。
なんなんだ、コイツ……
「あのなァ」
深くため息を付き、阿伏兎はがりがりと頭を掻き毟った。
「そりゃまぁ、分からなくもない。独りでするとなんつーか空しいし、罪悪感もあるしな。だが、だからってアンタ。壁を殴るお仕事はないでしょ」
があの状態の間、ここで壁を殴り続けるつもりか。
襲いも出来ず、いやらしい気持ちにもなれず、ひたすら無心になるべく壁を殴り続ける――――どこの修行僧だ。
だいたい、神威は他の人間がに触れるのを極端に嫌がる。今のなら尚更だ。あの潤んだ瞳で切なげな顔をされたら――――死と隣りあわせであっても、簡単に理性など粉砕されて襲い掛かってしまう輩がいるかもしれない。
だからの看病は神威にしか出来ないのだ。
の前では天使のような笑顔を見せ、裏ではひたすら壁を殴り続け……。
そして、俺はまた鼻血を噴く羽目になるのだろうか。そんな事を阿伏兎はぼんやりと考える。
だが、神威は唇を真一文字に結び、放っておけと呟いた。
「風邪だってずっとなワケじゃないんだから。そしたら……」
理性のリミッターを外すと言うのか。
それはそれでが可哀相ではあるが、こうなっては何を言っても無駄だろう。
阿伏兎はため息を漏らすと、
「……病み上がりの時は優しくしてやれよ」
と、精一杯の気遣いを見せた。極限まで抑圧された彼の煩悩が、爆発しない事を祈りながら。
――――と。
突如、神威が目を見開き、飛ぶような速さで阿伏兎の脇を通り過ぎていった。
何事かと振り返ると、貨物室の入り口にカーディガンを羽織ったが蹲っている。
「! 寝てなきゃ駄目じゃないか!」
叱り付ける様な厳しい声が響く。
だが、はしゃがみこんだ神威の首に両腕を絡ませ、
「いや……。ひとりはイヤ……」
縋りつく姿はまるで親鳥を探す雛のようで。
「ごめんなさい……でも、二人が帰ってこなくて……わたし、不安で……」
涙の滲んだ不安げな声に、神威はそれ以上怒れなくなってしまった。
「とにかく戻ろう。ここは寒いから」
神威はの身体を軽々と抱きかかえると、安心させるようににこりと微笑んだ。
大事に、大事に、まるで真綿でくるむようなその仕草に、先ほど神威が語った言葉が単なる意地でない事を阿伏兎は知る。
普段はとかく乱暴で一方的で、相手の気持ちなどお構いなしに愛するくせに。
なんだかねェ――――
阿伏兎はがりがりと、何か釈然としないものを感じながら頭を掻き毟ると共に、盛大なため息を付いたのだった。
その夜――――
自室で眠っていた阿伏兎は一本の電話でたたき起こされる。
初めは無視してやろうと思ったのだが、あまりにしつこいので受話器を取ると、電話線の向こうから怒鳴るような上司の声が響いた。
「女の団員を呼べ」
「はァ?」
「今すぐにだよ。五分以内に来なかったら、一分遅れるごとにお前の指を折るから」
「待て、待て待て、何だそりゃ」
「がすごい汗かいてるんだよ! 着替えさせないと逆に具合が悪くなる」
なんだそれは――――
恋人なんだからアンタがやればいいだろうとか、女でも触らせたくないんじゃないのかとか言いかけて。ああそうか。こいつも大分余裕がないのだと知る。
「……分かったよ。分かりましたよ」
そんな下らない理由で指を折られてたまるか。
しぶしぶと承諾すると、受話器の向こうから噛み付かん勢いで怒鳴られた。
「いいから、早く呼べっ! 一分につき腕一本だからな!」
がちゃん。
――――オイオイ、約束がずいぶん違うじゃねェか。
end
シモくてすみません。
兄ちゃんが男子高校生みたいですみません。