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風邪引きサン02





「とりあえず理由を説明しやがれ、このスットコドッコイ」
 左の鼻腔から鼻血をぼたぼたと垂れ流しながら、阿伏兎は目の前で彼の血の付着した拳をぐっと握り締める神威を睥睨した。
 出会いがしらに問答無用の上段蹴り。
 いくら理不尽な団長とは言え意味が分からない。
「イラついてたから?」
「オイ。いくら団長でも殴るぞ、コラ」
 理不尽に理不尽を重ねる神威の返答に、阿伏兎は顔を険しくさせた。
 神威が離席してから三十分。
 が食事を終え――――と言っても、神威がいなくなってからほとんど口にしなかった――――ても、彼は戻って来なかった。
 神威の行動は不可解だが、ここで口にしても仕方がないだろう。そう思い黙っていた阿伏兎だったが、は神威の事をかなり心配しているようだった。
 お願い、ちょっと見て来て、と。普段だったら絶対に頼まれたくないようなその願いを、不承不承引き受けたのはに余計な心配をかけたくないという親心。
 それで艦内を探し回り方々見て回った結果、貨物室の隅で彼を見つけた。
 こんな所にどんな用事があるのだと訝った阿伏兎だったが、神威の行動はその疑問よりも更に不可解だった。
 ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ。
 大きく振りかぶって、全身の力を込めた拳を壁に叩き付けている。
 神威に殴り飛ばされて大破しないのは、ここに食料や燃料と言った大切なものが備蓄されており、船内でも一番守りを固めなければならない場所だからだ。だから、ちっとやそっとの事では壊れない。否、壊れてもらっては困るのだ。
 それを知っているからこそ、彼は渾身の力で壁を殴っているのだろう。
 だが、何故――――
 アンタ何してるんだ、が心配してるぜ、おい落ち着けよ。そんな事を背後から語りかけたと思う。
 だが、神威の行動は実に迅速で、阿伏兎が近づいた瞬間くるりと振り返り、問答無用の上段蹴りを阿伏兎の顔面に炸裂させたのである。
 で、結果がこの鼻血だ。まさかこの歳になって、一日に二度も鼻血を噴くとは思わなかった。
 と、それはさておき――――
 ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ。
「なにイラついてやがる」
 再び壁を殴り続ける作業に戻った神威に、阿伏兎は背後から語りかけた。
 別に、と素っ気無い返答。
「なァにが別にだ、スットコドッコイ。をほっぽって何の用事があるかと思えば、壁を殴るお仕事だと? どこのガテン系兄ちゃんだ」
「うるさいなぁ。大工のゲンさんみたいなもんだろ」
「ありゃ少なくともハンマー使ってたね。あと意味なく壊してねぇ。確か恋人を救うとかいうストーリーだ。ファミコン版しか知らねェけど」
「残念。俺はスーファミ世代」
 だからどうした、ンなモン大して変わんねェよ。そう言いかけたが、どうやら神威はまともに会話をする気はないらしい。
 阿伏兎ははぁっと深いため息を付き、
「当ててやろうか」
 ピタリと、神威の拳が止まる。
「普段だったら触らせるのも嫌がるくせに、なんで俺なんかにメシの世話まで押し付けたのか」
 無言だ。振り返りもしない――――が、これはかなりの確率で脈アリと考えていいだろう。
 途端、阿伏兎は笑ってしまった。もし自分の想像通りなのだとしたら、何と可愛らしい事か。唯我独尊を突っ走る暴走車のような男が、こんな事で葛藤しているだなんて。
「男は大変だよなァ。シモは正直で」
 にやりと笑った瞬間、神威の鋭い蹴りが阿伏兎の即頭部に叩き込まれていた。
 脳震盪を起こしそうなほどの衝撃――――だが、キレがない。もし、普段の神威だったら、阿伏兎の身体を吹き飛ばし、壁にめり込むほどの衝撃を持っていたはずだろう。
 そこで阿伏兎は確信する。
 そんな行動など見るまでもなく、神威の顔は耳の先まで真っ赤だったのだ。




end


珍しく赤面。
余裕ないです。