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!CAUTION!
「正しい兎の保健体育」と直接的な関係はありませんが、同じ夜兎族についての捏造設定、当サイトオリジナルの白兎設定を使ってます。
問題ない方のみお進みください。







































悲しい兎の保健体育03





「正真正銘のサディストか、アンタ」
 呆れと慄きが半々になったような顔で阿伏兎が隣室から出てきたのは、が完全に意識を失ったと確認できたからだった。
 ソファに座った神威の膝にが頭を預けた格好で横たわっている。神威の上着を羽織っているものの全裸のを前にして、さすがに目のやり場に困った。
 情事の痕跡が所々に残るこの場所から、早く立ち去ってしまいたかったが、目の前の嗜虐的な笑みを浮かべた男は決してそれを許さなかった。
 阿伏兎が把握しただけでも軽く片手は絶頂を迎えたは、ぐったりと身体を弛緩させすっかり意識を飛ばしてしまっている。
 その髪をゆっくりと撫でる神威の仕草は、とても暴力的な情事を披露したばかりには見えなかった。
「で、どうだった?」
 にこにこと容赦なく聞いてくる神威に、ここでそれを聞きますか、と阿伏兎は呆れ顔を作った。
「あー、アンタが絶倫だってのは十分にわかった。だからオジサンをもう苛めないでくれ」
「それで?」
「それでって……」
 他に何を言わせたいのだと、阿伏兎はウンザリしながら上司の顔を見やる。
 が神威のオンナである事は、十分に分かった。
 これは俺のオンナだ。俺のために居て、俺に喰われるために生まれたんだよ。だからお前なんかが手を出すな。
 そう隣室で待機を命じられた阿伏兎に、イヤと言うほど見せ付けたのである。
 あれだけ煽って、誘って、誑かすくせに、お前はいやらしい妄想すら一切するなと、無理難題を押し付ける。
 だが、阿伏兎の名誉にかけて、一つだけはっきり言わねばならない事がある。
「あのなァ、団長。言っとくが俺はこんなガキ、そもそも好みなんかじゃねェんだよ」
「ああ、メガドライブが好みだっけ?」
「……まぁ、そういうこった。こんなチチもケツも小せェDSにゃ本気にならねェよ」
 ふうん、と神威はの髪を撫でながら笑っている。
 どうやら阿伏兎の発言に怒っている節はない。それで? と先を促される。
「だからな。俺はメガドライブがありゃ、メガドライブで遊ぶ。が、たまたま手元にはなくて、あんたがプレイしてるマリオカートがたまたま面白そうに見えたんだよ」
「ふーん。偶々が続くね?」
「それこそ、偶々だ」
 だからそんなに怖い顔で威圧するな。俺はマリカなんざやらねーよ。
 そう言外に告げると、神威はしばし無言で微笑んだ後、わかったよと頷いた。
「ま、たまには別のゲームもしてみたくなるのかもね」
「俺にゃ画面が小さすぎたがな」
「俺にはこれが丁度いいよ」
 惚気たところで、ふと神威が真面目な顔に戻った。
 細めた目を見開いて、気絶したの顔を眺める。
「科学ってのは怖いネ。俺はどうにも胡散臭くて嫌いだけど、遺伝子操作でこんな玩具も作れちゃうんだ」
 汗で額に張り付いた髪をそっと払ってやると、あどけない寝顔が露わになった。
 だが――――あどけないと思わせるのも、すべて“そう”なっているからなのかもしれない。
「白兎を買うヤツってさ、実は三割は夜兎の男なんだってさ」
 どこかの秘密クラブで仕入れた情報を、さも今思い出したかのように神威は語った。
 とは言え、忘れた事はないだろう。
 言うなれば、神威自身もその内の一人だ。違うのは白兎を買う対価に金を払っていない事と、が通常の白兎と違って牙も爪も生えている事だろう。
 だが、望むと望まざるとに関わらず、は品種改良を施された夜兎の血を引いている。
 その髪は何者にも染まる白であり、その瞳は血の色を湛えた赤である。
 喰われるために作られた兎。喰われるために様々な仕掛けを遺伝子レベルで組み込まれた兎。それなのだ。
「ま、もともとは夜兎の繁殖を促進させる計画だったって言うじゃねェか」
 知ってたんだ? と神威が少し驚いた顔を見せる。当たり前だ、と阿伏兎。件の秘密クラブで大暴れして壊滅させた原因を、阿伏兎が知らぬはずがなかった。
 夜兎の雌は極端に少ない。よって、どうしても出生率は下がり、雄が雌を取り合って殺し合いをしてしまう。
 そのため少ない雌を補填するために人工的に子を産める雌を生み出す事が、そもそも白兎の誕生の発端である。
 結局、初期計画は頓挫してしまい、それは性玩具を生み出す計画にシフトしたわけだが、本質的なところは変わらなかった。
 だから到底収入が良いとは思えない、夜兎の雄があくせく働いて白兎を買う。
 単に女に飢えているわけではない。番いになりたいという結婚願望も理由ではない。
 きっと、抗えないのだ。
 そもそも夜兎の雄を誘うために生み出されたそれは、遺伝子レベルでそうなっている。
 存在そのものが誘う。狂わせる。
 発情期の雌の性フェロモンなど比較にならぬほど、涸渇するような凶暴な欲を掻き立てる。
 金も持たず、そんな女に出会ってしまったら不幸だ。
 麻薬を体中の毛穴から流し込まれているようだ。
 麻薬物質は体中を巡り、脳に至る。そこで縦横無尽に暴れまわり、破壊しつくす。そして、コントロールルームを乗っ取ったそれはある命令を下すのだ。
 “私を愛しなさい”。どうしようもなく我侭で乱暴な命令を。
「ったく、悪魔か」
 阿伏兎はがりがりと髪を掻き毟った。
 夜兎にしてみれば大迷惑だ。
 いかに強靭な肉体を持とうとも、頭をやられては太刀打ち出来ない。白兎に止めさせる事が出来るならまだ救われるかもしれないが、あいにく白兎自身の意思などかけらも関与していないのだ。
 まるで雄を破滅させるためだけに存在するようなものである。
 作り手もそんな副作用を抱えて生まれてくるなどと思わなかっただろうが、夜兎でもない天人にしてみれば夜兎がどうなろうと知った事ではない。むしろ、破格であっても白兎を買う哀れな男が増えるのだから、喜んでいるくらいだろう。
 まったく、迷惑な話である。




end


長くなったので一旦きります。