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!CAUTION!
「正しい兎の保健体育」と直接的な関係はありませんが、同じ夜兎族についての捏造設定、当サイトオリジナルの白兎設定を使ってます。
問題ない方のみお進みください。







































悲しい兎の保健体育





 伏せた睫毛が微かに震えるのが美しいと感じた。
 目鼻立ちの整った顔。とても殺人的な暴力を生み出すとは思えない、華奢な身体。
 艶やかな唇の下にはとうてい獰猛な牙が隠されているとは思えないし、紅玉のように澄んだ紅い瞳に狂気が宿るなどとも思えない。
 そう――――一言でいうならば、“よく出来ている”。
 品種改良を施されたそれは、阿伏兎のような天然の造詣で生まれた兎にとって見れば、不自然なほど美しく出来ていた。
 の細い指先が垂れる銀糸のような髪を掻き揚げて、小ぶりな耳が露わになった。先が仄かにピンクに染まるそれを見て、ドクンと身体の奥が疼くのを阿伏兎は感じる。
 きっと、ただ美醜の程度だけで語るのならば、この程度の美人はそこらにいるのだ。
 それこそ天然の化物である我等が団長様とて、顔だけ取ってみれば至極美しい部類に入る。
 だが、神威とを並べた時、明らかに違和感が残るのはだ。
 表の洗練された美しさの裏に潜む、ねっとりと絡みつくような異様な空気。
 人の心をざわつかせて、妙に不安を煽るような何か――――
 それが髪を耳にかけるたったそれだけの仕草にさえも、当人の知らぬところで計算づくで組み込まれているように感じた。
 誘ってやがる。存在そのものが、誑かそうと狙ってやがる。
 何故そんな事をするのか。答えは至極簡単だ。
 が白兎と呼ばれる、品種改良された夜兎の一種であるからだ。愛玩用に作られたこの見てくれの良い兎は、銀河中のスケベなジジイ共の慰み者として高額で取引されている。
 用途を知れば疑問もない。この不自然なほど整った顔は、商品価値を高めるための付加価値だ。
 そして、阿伏兎の心を干すようなこの悪魔的な誘惑は――――





。ちょっと外に出ててよ」
 ふいに阿伏兎の思考を遮るように、デスクに頬杖をついた神威が笑顔で告げた。
 熱心に膝の上に広げた雑誌に見入っていたが、え? と不思議そうな顔を上げる。
 神威はにこりと微笑んで、
「阿伏兎がやらしい目でお前のこと見てる」
 途端、痴漢にでも会ったような顔で、がぎょっと目を見開き阿伏兎を振り返った。
「いや! 待て待て、誤解だ! 団長の目の前で、んな自殺行為すると思うか!?」
「あ……はは、だよねぇ」
 そう言いつつも、引きつったような笑みを浮かべたは、ゆっくりと後ずさり逃げるように外へ出て行ってしまった。
 完全に痴漢扱いだ。ちっと阿伏兎は不機嫌そうに舌打ちを打つ。
 が――――そうそう文句も言っていられまい。
 ゆったりとした足取りで獲物を追い詰めるように寄って来た神威に、今のような言い訳が通じるとは思えなかった。
 第一撃は無言のまま放たれた。
 ドスッと手刀を埋め込まれたソファが、まるでお前もこうなるよ? と脅すように阿伏兎の前で綿を零れさせる。
「やらしぃなぁ。のこと、ねっとりした視線で見てさぁ」
 神威は笑っているが、その笑みがいつにもなく黒く沈んでいる事に阿伏兎は気づいた。
 ああ、チクショウ。と、胸中で毒づく。
 どうして自分は気づかなかったのか。
 阿伏兎が感じていたように、同じ部屋にいた神威もまたの悪魔的な蠱惑な香りを感じ取っていたのだ。
 欲というのはどこかで繋がっている。
 食欲と破壊欲の強いヤツは、往々にして性欲も強いのだ。しかも独占欲と支配欲をかねそろえた、ひどくサディスティックなそれに繋がる。
 の魅了にあてられて神威がそれを我慢していたのなら、今まさに破壊欲に変わった彼の欲望と苛立ちはとてつもないものだろう。
 俺、死んだかもな。
 阿伏兎は皮肉めいた笑いを口元に浮かべた。





「団長が呼んでる」
 片方の頬を腫らして、阿伏兎がを呼びに来たのはそれからすぐの事だった。
 先ほどの一件があるため、は警戒するような眼差しを向けたが、阿伏兎は構わず先導するようにツカツカと早足で前を歩いた。
 団長室の前で、入れ、とでも言うように阿伏兎が顎をしゃくって見せる。
 訝りながらも黙って中に入ろうとするの背中に向けて、阿伏兎は深くため息をついた。
「なぁ、欲ってのは暴力だと思わねェか? 支配したいと思うのも、支配されたいと思うのも、どっちもとんでもなく我侭で乱暴な暴力だ」
 阿伏兎が何を言っているのか分からなかったが、彼がの不思議そうな視線に応える事はなかった。




end


ども。続きものというほででもないですが、
同じテーマなので似たようなタイトルで始めました。
「正しい〜」よりはシリアス気味です。