愛曲03
晴れて団員達の公認(?)の元に恋人同士となった二人――――だったが、それで甘い関係が始まったわけではない。
むしろ殺伐とした殺し合いと、乾燥した愛欲の日々。
一命を取り留めたがそんな関係を甘んじて受け入れるはずなどなく、隙を見ては神威を殺そうとするのである。それを力任せにねじ伏せて、ぼろぼろになったの身体を無理やり抱くという、歪んだ関係。
倒錯嗜好でもあるんじゃねェの、とからかった阿伏兎に神威は至極真面目にそうかもしれないね、と返した。
「でもさ、殺気立ってる女ってすごくそそらない? 自分を殺そうとしてる女なんて特にね」
それを耳にして、ああコイツだめだわ、と阿伏兎が早々に諦めたのは言うまでもない。
相手をさせられるに同情するが、あいにくこの馬鹿を改心させる事など到底無理そうだ。願わくばもこの馬鹿を憎からず思ってくれる事を祈りながら、阿伏兎はこの件には以来口を出さない様になったのだった。
だが男女の仲とは不思議なもので、そんな殺し合いと一方的な情事の日々を繰り返す内に、二人はそれらしい恋人に変わって行ったのだった。
勿論、隙さえあればは神威を殺そうとするし、そんなを神威が返り討ちにするのに躊躇いが生まれたわけではない。
だが、腐れ縁とでも言えばいいのか――――の硬化した心が徐々に軟化し、神威を認めるようになったのは事実だった。単に諦めたのかもしれないが、鎖が無くとも逃げなくなったし、四六時中所構わず神威に襲いかかる事も無くなった。
「調教の賜物かねぇ」
意外そうに呟いた阿伏兎に、神威は柔らかい笑みを浮かべて見せる。
「も夜兎だったって事だよ」
血を求める本能に抗えない。
強ければ強いほどそれは抗い難い誘惑となり、その血を欲しくなってしまう。
きっと、神威がの血に酔ったように、も神威の血を欲したのだろう。この男の血が欲しいと、夜兎の生存本能が告げたのかも知れなかった。
ふうん、と適当な相槌を返した阿伏兎だったが、その事を思いの外、神威が嬉しく感じている事が意外だった。
このアホ団長に春が来るとはねぇ――――
殺す事と食らう事くらいしか興味がないと思っていたが、この男でも一人の女を愛おしいと思う事があるのかと。
それは決して愛や恋などと呼ぶ可愛げのある感情ではないだろうが、誰か一人に特別な感情を抱くなど、この団長にしては大進歩である。
何はともあれ、この歪んだ恋人達に幸あれと――――阿伏兎は誰にとも無く祈ったのだった。
しばらくもの思いに耽っていた阿伏兎の前に、神威が姿を現したのはそれからしばらく後の事。
いつもの上着を手に携え、薄手の黒のランニングシャツ姿で歩いて来る。見るからに事後です、と言って歩いている様なものだが、誰も恐ろしくてそんな事を口に出来ない。
――――副団長である阿伏兎を除いては。
「無事だったか団長。今回こそ、どっちか死ぬかと思ったんだがなァ」
「ん、別の意味で死にそうだったけどね」
羞恥も無く惚気てみせる神威に、アホ抜かせと軽口を返す。
とは言え、殺し合った後に抱き合ったのだから、の方は今頃虫の息かも知れない。
誰か向かわせるかと思案しかけた阿伏兎に向かって、要らないよと神威が笑顔で返す。
「むしろ……勝手に部屋に入ったら殺すから」
「わーった、わーった」
一瞬殺気立った神威に向かって、潔白を証明するように阿伏兎は慌てて両手を挙げた。
誰にも見せたくないのなら、せめてもう少し優しくしてやればいいのにと思いながら、まあ無理なのだろうなと阿伏兎は思う。
この奇妙に歪曲した愛情に介在できる者など誰もいないように、この歪んだ関係を正す事など不可能なのだ。
むしろ、歪んでいるからこそ愛情が成り立つのだろう。不器用と呼ぶにはおこがましい傲慢さで、二人が求め合っているのだから。
「ま、何はともあれ、お幸せに」
せめて一言皮肉を言ってやろうと、阿伏兎はそんな在り来りな言葉を口にした。
end
なんだかおかしな終わり方ですが……
これにて「愛曲」完結です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
ヒロイン設定を固めるために、試金石として書いた話なので、
時間設定やら色々飛んですみません。
もう少し詳しい話は、近日更新予定の長編でリベンジさせていただきます!