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愛曲02





 どこか遠くで悲鳴が聞こえる。それが自分の唇から漏れているという自覚すら、はとうに失いかけていた。
 船室に備え付けられた簡易なベッド。団長室といえどもその品質に変わりはなく、睡眠を取る事だけを目的としたそれは、二人分の体重を受けてぎしぎしと軋んだ音を立てていた。
 荒々しい律動に身体より先にベッドのスプリングの方がイカれてしまのではと思ったが、意外と乱暴な扱いにも保つらしく、なかなかの望む終焉は訪れない。
 そう――――延々と繰り返されるこの濃厚な愛欲の遊戯。気絶しては覚醒され、目覚めれば否応なしに繋がる。
 まるでケモノだと胸中で呟き、そう言えば自分達は兎だったと今更ながら思い出した。
、起きた?」
 ぎしぎしとベッドの軋みと共に、律動を繰り返していた神威がの顔を覗き込んだ。
 起きてなくたって、お構いなしなくせに――――
 意識があろうが無かろうが、神威のする事に変わりはない。穴を穿って、擦り上げて、熱を放って、また奥を求める。
 が何を言いたいのか察したのか、神威はニコリと微笑むと耳元に囁いた。
「違うよ」
 低く掠れた声に、じゅんと腰の辺りが疼いてしまう。
 反応を楽しむように神威の歯が、柔らかく耳朶を噛んだ。
「独りで遊んだって、そんなの自慰と一緒だよ。が感じてくれなきゃ楽しくない」
 甘噛みするように耳の先を噛みながら、指先はの身体の輪郭をなぞる様にゆっく這う。
 ひどく粗雑な殺し方をするくせに、こういう時だけ丁寧で繊細だ。
「ねえ、俺との約束覚えてる?」
 愛撫はそのままに、鼓膜を犯し続ける様に甘く低い声で囁く。
「俺を殺したら自由にしてあげる。それまでは俺のもの」
 忘れるはずがない――――
 がこの場所に、春雨第七師団に所属するきっかけとなった一言だ。
「うん……、覚えてる」
 そう返すと、神威は上機嫌で微笑んだ。そして、喜びを体中で表現するように、最奥を求めての身体を揺さぶったのだった。





 もともとは、海賊行為などに興味はない。春雨に入団したのも、ことの成り行きと言うか他に選択肢がなかったためだ。
 気ままに仕事を請け負う殺し屋――――それが春雨に属する前のの肩書きで、たまたま請け負った依頼のターゲットが神威だったのだ。
 同胞である神威を殺す事に多少の抵抗はあったが、ビジネスに私情を挟むのはプロとして失格だ。
 殺してしまえば骸に種族も同郷もない。ただの肉塊だ。
 そう心に念じ彼を襲ったのだが、彼の化け物じみた力の前ではとんと相手にならなかった。殺し屋稼業を営んでいるのだから、そこそこに自分は強いつもりでいたが、そんな風に思っていたのが恥ずかしくなるくらい神威の強さは桁外れだった。
 腕の骨を折られ、脇腹を穿たれ、ついに年貢の納め時かと覚悟を決めた瞬間、彼がふふふと笑みを零した。
 侮辱されたと感じた。これ以上生き恥を晒すくらいなら早く殺せと噛み付くに、神威は勿体無いな、と呟いた。
「こんないいオンナ、殺してしまうのは勿体無いよ」
 ねえ、君――――と声をかけられたかと思うと、
「俺のオンナにならない?」
 未だかつてこんな馬鹿馬鹿しい告白を受けた事などない。
 馬鹿にしているのかと思いきや、当の本人は大真面目で、の身体を軽々と片腕で抱き上げると愛おしそうに抱き締めたのだった。
「団長、ふざけてんのかよ!」
 遠巻きに見ていた団員から、非難の声が上がった。自分を殺しに来た殺し屋を、そのまま愛人にしてしまおうなど馬鹿げている。だが、次の瞬間――――声の主は血塗れの肉塊になっていた。
「誰がふざけてるって?」
 笑顔で問うが、その声に応える者はいない。
 さえも絶句してしまって、二の句が継げない状態。
 神威は凄む様にいつもの笑顔で団員達の顔を順々に見やると、
「今日からは俺のオンナだから。手ぇ出したら殺しちゃうぞ」
 と、殺人的な微笑みを浮かべて告げたのだった。




end


「殺しちゃうぞ☆」にすべての愛情が込められてます。
次回、最終話。