殺人的嫉妬
屍累々、戦場の如く――――
そんな光景を目にした阿伏兎は、がりがりと頭を掻き毟ってから心底呆れたように深いため息をついた。
惨状の中心には明るい髪を三つ編みにした青年。にこにこと笑みを浮かべているのに、その血まみれの姿はどうしようもなく凶暴だ。
「いい加減にしやがれ、このすっとこどっこい」
背後から声をかけると、青年――――神威がゆっくりと紅い飛沫の飛んだ笑顔を向けた。何度も見ているその凶相だが、いつにも増して凶悪に見える。
怒っているのだ――――
陽炎のように怒りが背後に揺らいで見える。
「何があったか知らねぇけど、無差別に味方殺してどーすんだ」
「味方?」
顔は笑顔のまま、神威がおうむ返しに聞く。
「いちおー、アンタの部下でしょーが」
「そうだっけ?」
はあ、と阿伏兎は再び盛大にため息を付いた。これは説教を垂れるだけ無駄と言うものだろう。
部下と言っても宇宙中からかき集めた有象無象の兵隊達。まだ同胞殺しにならなかっただけでも幸いだと阿伏兎は思い直すことにした。
「で、何が気に食わなかったんで?」
「んー、ちょっとね……」
はぐらかすように神威は呟くと、血まみれの両手を無造作に衣服にこすりつけた。
そしてすたすたと部屋の脇に進むと、その隅っこで丸まっている娘の前に膝を折る。
軽やかな寝息にほっと安堵の吐息を漏らし、両膝の下に手を差し入れると軽々と持ち上げた。
「じゃ、後片付けはよろしく」
それだけを無責任に言い残すと、ひらひらと手を振って去って行く神威。
何となく事の経緯を理解して、阿伏兎はやれやれと肩をすくめた。
地面に散らばった有象無象の死骸を眺めながら、
「団長のオンナに手を出そうなんてするから、死んじまうんだぜ」
と、独り言に似た言葉を漏らし、再びため息を漏らすのだった。
それにしても、オンナにちょっかいを出されかけただけでこの有様とは。上に知れたら面倒だと、この惨事をどう隠蔽したものか思案しかけ、阿伏兎は頭痛を覚える。
まったく、不器用と呼ぶには可愛げがなさすぎる――――
「嫉妬するなら、もう少し可愛げを覚えて欲しいね」
どうせ届かないだろうと知りながら、屍累々の血の海で阿伏兎は独り零すのだった。
end
はた迷惑な不器用さ。
嫉妬を嫉妬と理解しない兄ちゃんです。
面倒ごとはすべて阿伏兎に押し付けるよ!