リモコン少年
いつもそれは側にあるから、手元に無くても慌てたりしない。
テレビのリモコンと一緒。どうせ散らかした広告の裏だとか、洗濯物の下だとかに埋もれている。
だからすぐには探さない。このマンガ読んでから。おやつ食べてから。お掃除してから。
そして、いざテレビを消そうとした時に、あれぇ無いなあなんて言いながら小首を捻る。
小うるさい阿伏兎がいれば、ちゃんとテーブルの上に置いとけよとか、散らかしっぱなしにするからだとか、まるで母親みたいな事を言いながら一緒に探してくれるのだろう。
でも、阿伏兎は今は居ない。
だから一人でそれを探す。
机の裏。ソファの背もたれ。雑誌ラックの後ろ。
それでも見つからなくて、別にテレビなんて主電源切ればいいじゃん、とさえ諦めモードになる。ボリュームもチャンネルも変えられるのだし、別にアレなくてもいいんじゃないの? なんて。
だが、いつもあったそれが無いと、なんだか落ち着かないから仕方なく探しに行く。
本当は眠いし面倒くさいのだけど、失くしたと思うと奇妙な喪失感が胸をざわつかせて心地が悪い。
リモコンのくせに生意気だ。
テレビなんてロクに見てもいないのに、いざと言う時に無くなるなんて。
ぶつぶつ文句を言いながら家中を探し、見つからないからやがて外に出る。
いい加減、人類はリモコンから解放されるべきなんじゃない? ケータイとか何かに、何でも電子機器の電源が入れられる機能いれちゃってさ。それでお隣さんちのテレビまで、オンオフ出来るようになればいい。そんな事を考える。
そもそも持ち歩くものが多すぎて、勝手にどこかに行ってしまうそれを気にしている余裕がない。ケータイに財布、DS、刀。
手元にあると思ったのに、いつの間にか無くなって、煩く響くテレビだけが残される。
ここならスペア買えるんじゃないの? と電気屋の前で足を止め、いやいや電池入れ替えたばかりだし。と、再び歩き出した。
近所の公園を覗いて、行列のできるラーメン屋の前を通りかかり、いかがわしいピンク街を路地先から見渡す。
――――無い。
まったく。こうしている間にどんどん陽が傾いて来るし、お腹も空いてきた。商店街のどこかから、コロッケの美味しそうな匂いが漂う。
ふらふらと誘惑に乗りそうになり、空腹に耐えながら必死に逆方向へと足を進めた。
集団で走っている学生を横目に、鉄橋の見える土手にやって来ると、それはぼけっとした顔できらきら光る水面を眺めていた。
「ねえ」
背後から声をかけると、それは振り返り――――特に驚くことなく、まるでがこうしてやって来る事を知っていたような顔をした。
「やあ」
と、それが応える。
「ん、晩ご飯? 今日なに? 俺マーボー豆腐が食べたいよ」
こちらの気も知らず、好きな事を言ってくる。
芝生の張り付いたズボンの後ろをぞんざいに叩いて、うーんと伸びをする仕草はまるで寝起きの猫のようだ。いつからここに居たのか知らないが、きっと半日はぼけっと川を眺めて過ごしていたのだろう。
怒る気力も失せて呆れてしまった。
小さくをため息をついて、じっと神威の顔を見やる。
「ねえ、リモコンってさ、GPS付いてればいいと思わない?」
「そう?」
「色々他に必要なものあるのに、いざって言う時に見つからなくて困る」
「でも、いつも必ず見つかるだろ?」
そう告げた神威は、確信犯の顔で笑った。
そうか。リモコンという生き物はいざと言う時に物陰に隠れ、探している人間をおちょくっているのか。
「そーだね。やっぱり要らない」
ぷいっと顔を背け踵を返して歩き出すと、嬉しそうな笑い声が後ろから追いついてきた。
「探してくれたんだ」
「べつに」
「またまた、照れちゃって」
煩いな、と顔をしかめて振り返ると、まるで大型犬が飼い主にじゃれつくように、神威が両腕を広げて抱きついて来た。
ぎゃっとが叫び声を上げるが、神威は力を緩めることなく、全身の喜びを表すようにぎゅっとを抱きしめると、
「俺はいつでもの側に居るよ」
end
べつにあってもなくてもいいんだけど、必要な時にないとシャクに障る。
そんなリモコンを探しに行く話でした。