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おねだり





「買って〜、買って、買って、買って〜!」
 こういうのどこかで見たことあるなと、ぼんやりと思った。
 ソファの上にうつ伏せになって、バタバタと両手足を振る姿。元々、子供っぽい顔立ちをしているが、それを更に幼く見せる。
「ねぇ〜、阿伏兎〜。ねぇってば〜」
 甘ったるい声を上げて縋り付くような目で阿伏兎を見上げるが、対極に座る阿伏兎は湯飲みの茶をずずっと啜るだけで、視線は広げた紙面の上に釘付けだ。
「ね〜」
 は何とか関心を引こうと、阿伏兎の手から雑誌を引っ手繰った。おい、と迷惑そうに呟いて、すぐに阿伏兎はそれを取り返してしまう。
「買わねェって言ってんだろ。何度も言わせんな」
 有無を言わさぬ言葉。
 は恨みがましい目で阿伏兎を睨み付けると、すぐさま標的を移す。
「神威〜」
 は両腕を開いて、椅子に座る神威に縋り付いた。
 が甘えるなんて珍しい。どうしたの? と神威が可愛い恋人のおねだりに気を良くしていると、それを遮るように阿伏兎は無駄だぜ、と口を挟む。
「団長には無駄遣いさせないために、一切の購入権限はねぇ。第七師団の財布の紐握ってんのは俺だ」
 残念だったな、と阿伏兎の無慈悲な言葉にはがっくりと肩を落とすと、広げた両腕を閉じてとぼとぼとソファへ戻った。
「ねぇ、何の話?」
 自分だけ取り残されて――――ついでに、せっかくが甘えて来たのに直前で阻止され、神威はやや不機嫌に尋ねる。その神威に、これだよ、と阿伏兎はテーブルの上に広げられたチラシを渡してやった。
「超高性能サムライブレード ネオ・マサムネ?」
 どんな敵も一網打尽! の売り文句と、どこかのライトセーバーのような色合いの刀がでかでかと載っていた。値段のマルがあと二つほど足りなかったら、子供のオモチャと間違えてしまいそうなチャチさだ。
「これが欲しいの?」
 尋ねると、は満面の笑みで頷いたが、その背後で阿伏兎が首を横に振っている。
「夜兎にゃ傘一本ありゃ十分じゃねェか。だいたい、アンタ……武器ならもう事欠かねェだろ」
 そうしてチラリとのチャイナドレスの裾を見やる。その下に飛び道具やら重火器やらが大量にしまわれている事は周知の事実だ。
 その上、腰のバックルには黒い鞘に収まった、本物の刀がぶら下がっている。すでに全身武装を済ませていると言うのに、一体これ以上どこを武装するというのだ。
「でも、コレすごいんだよ!? どんな固い皮膚でも骨でも、一刀両断に出来ちゃうし」
「ンなモン、今だってできるだろーが」
「先っぽからレーザー飛ばせるんだよ?」
「光線銃もその裾の下に隠してンだろ」
「暗いところで使えば懐中電灯代わりになるしー」
「ケータイのバックライトでも使ってろ」
 何を言っても、阿伏兎に無下に返されてしまう。
 神威〜、と助けを求めるような顔では神威を見たが、彼もまたあまり興味の無さそうな顔でチラシを眺めていた。
 そもそも夜兎が一番強いのは肉弾戦なのだから、武器すら彼は必要ないと思っている。がそれを持つのはファッションの一部だと割り切っているが、実はあまり好ましく思っていないのだ。
には必要ないよ」
 助け舟をバッサリと断られて、はがくりと肩を落とした。言わんこっちゃねェと、阿伏兎が呆れたような眼差しを送ってくるが、はそれには一瞥もくれず嘆息を漏らした。
 欲しかったのになぁ、とがぼやく傍らで、神威はチラシの裏にも別の商品が載っている事に気づく。
 色とりどりの宝石をはめ込んだジュエリーたちを眺めながら、に似合いそうだなとぼんやりと考え、
「ねえ。俺におねだりするなら、こーゆーのにしなよ」
 ひらりとチラシの裏をに見せると、はじっと見入ったまま小首を傾げた。
「んー……可愛いと思うけど……」
「けど?」
「こういう石のはまった、小型拳銃とか売ってないかな?」
 ダメだコイツ、と傍らの阿伏兎が肩をすくめたのは言うまでもない。




end


最近、忘れがちだった武器マニア設定。
チャイナドレスの下にはあらゆる武器が隠されています。