どっちがお好み?
どうせ常軌を逸しているのだし、自分の常識の範疇には納まらないのだから、考える事を止めようと阿伏兎は考えていた。
あのはた迷惑なバカップルの事である。
素直に乳繰り合ってりゃいいものを、恥ずかしいのか照れ隠しなのか知らないが、何故か二人の睦み合いには血飛沫が絶えない。
互いに憎からず思っているくせに、わざわざ殴り合いやら殺し合いを繰り広げるのだから、とんだドMでドSだ、ド変態共めと胸中で毒づいていたものだが、その日朝一番で目にした上司の顔が血塗れだった事で、阿伏兎は否応なくこのバカップルの存在を意識せざるを得なくなった。
ぼたぼたと鼻腔から鼻血を流した顔を眺め――――どんなエロイ妄想してるんですか、と冗談を言いかけて止めた。
上司が恐ろしいほど上機嫌だったからだ。
「どうしたんだよ、アンタ。それ」
問いかけて、しくったと小さく舌打ちをする。
答えなど決まっているではないか。我等が団長様をこんな風にぶん殴れるのはただ独りだ。
「ん、がさ」
と、唇の先に垂れてきた血を、ぺろりと舌先で舐め上げて笑う。
「浮気者ってカンカンでさ」
「なんだそりゃ」
カンカンで鼻血を吹くほど顔面を殴打される、というのは些か過激だが、そもそもこの男が他の女に手を出したりするだろうか。
見ているこちらが恥ずかしくなるくらいベタ惚れであるくせに、まだそんな疑いをかけられる余裕があるのかと阿伏兎は呆れた。
「冤罪なんだろ? 土下座して許してもらえよ」
と、馬鹿馬鹿しくなって適当な事を言うと、神威はんー、と考える素振りをしてから、
「冤罪でもないかも?」
と、小首を傾げて見せた。
「は?」
「他の女に気のある振りしたら、が嫉妬してくれるかなぁと思って」
「アンタ……」
馬鹿だ。
嫉妬を通り越して殺意に至っていれば世話がない。
「アンタなぁ……。おかしいだろ、どう考えても」
「そう? 俺、ツンデレよりヤンデレの方が好きなんだよね」
「聞いてねーよ」
と言うか、そもそもアンタが一番病んでる。いっぺん病院行って来い。
そんな言葉を真正面からぶつけると、神威は怒るどころかへらへらと笑って見せた。まるで光栄だと言わんばかりに。
と、その時、部屋の外からシャキーン、シャキーンと刃物が擦れるような音が鳴り響いた。遠くからやって来るそれは、どんどん近くなり、阿伏兎達のいる部屋の外まで迫る。
何事かと二人がドアの方に視線をやると――――
スパッ、と一閃が鉄製の扉に走り、一刀両断に切り落とされた。
見事に壁を失った空間の先にが立っている。
その顔には満面の笑みを浮かべ、両手にはシザーマンのような大きな鋏を携え、
「神威。いっぺん虚勢されてみる?」
にこりと微笑むと共に、鋭利な切っ先を神威の股間目掛けて突き出したのだった。
お互い満面の笑みを浮かべながらも、一方はヤンデレに酔いしれ、一方は殺意を滾らせ、今日も盛大に迷惑なバカップルを前に阿伏兎は深くため息をついた。
「あー、ああ……もう、コンチクショウ」
どうせ常軌を逸しているのだし、自分の常識の範疇には納まらないのだから、考える事を止めようと阿伏兎は考えているのだが――――どうにも、この二人はそれを許してくれないらしい。
「俺はぜーったいツンデレ派だからな」
阿伏兎の苦難は尚も続く。
end
ツンデレ、ヤンデレ書いてますが、迷惑なバカップルなだけで、
別に病んでないですね、はい。
アブさん、いつもお疲れ様ッス!