夏の様相
「いいねェ」
くるくると回る鮮やかな日傘を目にして、思わず目を細めた。
藍色の生地に、くるりと渦状に飛ぶ蝶々の群れ。蝶は単なる色抜きの白ではなく、淡くグラデーションしてどれ一つと同じ色がない。
柔らかな陽光を受け、透かし見る蝶がまた美しい。
「ああいう楽しみがあるのは、まさに女の特権だねェ」
傘屋の壁にもたれ、自身は庇の下から一歩も出ず、日の下であれもこれもと傘を開いているを、じっと見つめている男の声をかける。
「そうだね。俺たちはべつに色なんてなんてもいいし」
と、自身の二藍の傘の柄をくるくると回して見せる。
傘を選ぶ時に重要なのは、まずは遮光性。光を除けるものなのだから、これがいまいちでは話にならない。次に当然、強度。どんなに遮光性がバツグンでも、容易く壊れてしまっては元も子もない。
その次に来るのが機能性だろうか。自分は大して使わないが、夜兎の中には刀や銃を仕込むのが好きな奴もいる。
重量というのは大して大事ではない。軽い方が振り回し易いし、重い方が飛びにくい。この辺りは好みだ。
そして最後にもっともどうでも良いと思われているのが色。特に決まりはないのだが、藍色や紫、臙脂や赤の傘を手にすることが多いように思う。汚れが目立ちにくい色なのかどうか知らないが、薄い色やましてや模様入りの傘など、好んでさすのは婚礼用の傘ぐらいだと思っていた。
そういう意味では、きっとは例外なのだ。
そもそもにとって傘の必要性は、一般の夜兎に比べ遥かに低い。遮光性に敏感になる必要もないし、武器として用いないので強度も関係ない。
純粋にアクセサリーとして楽しむ事が出来る。
「オジサン、それとあれ、あとそっちの桃色のやつもちょーだいネ」
そう言って、壁にもたれていた神威が財布を開いた。
もともと神威がプレゼントすると言うことになっていたらしいが、三本も買うの? とが意外そうな顔をしている。
「一本でいいよ。そんなに買ってもらうの悪いし、私大切にするよ?」
だが神威は上機嫌でいーの、いーのと気前よく支払いを済ませてしまう。
「俺の財布から出てたって、この稼ぎはの働きによるものでもあるんだし。それに女に傘をプレゼントするって、けっこう悪くない気分なんだよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、神威はの手に包装紙に包まれたそれを手渡した。
は戸惑いつつも、ありがとう、と告げて微笑む。
「向日葵の傘は晴天の日にさすといいよ。水色の金魚のやつは雨の日に、桃色のは曇天の日に」
そう告げる神威を眺めながら、阿伏兎はははあ、と得心する。
男が服をプレゼントするのは脱がすためだと言うが、それに似たような理由を感じ取り阿伏兎はひとりにやりと笑みを浮かべた。
夜兎に傘をプレゼントするのは、命を預けてほしいという信頼のため。
女に傘をプレゼントするのは、常に自分が守るという信愛のため。
そして三本も、どんな天候にも合わせられるよう傘をプレゼントするのは、これはもう疑いようがない。
どんな時でもお前は俺が守ってやる。だからお前も俺を手離すな――――
きっとそんなエゴに満ちた、深い愛情。
end
あれ? 最終的に夏とか全然関係ないですね。
兄ちゃんは独占欲の塊なので、
きっと身に着けるものすべて自分が与えたいとか思ってるんじゃないかと。