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月夜に兎・背徳寓話02





 燦々と降り注ぐ日の光を物ともせず、銀色の髪をたなびかせているその姿を単純に美しいと感じた。
 それはきっと自分が決して持つ事の出来ない強さに、少なからず嫉妬したからに他ならない。
 屍累々と折り重なった山を、我が物顔で征服する姿は兎の女神に相応しいと感じた。
「どうしたの?」
 日差しの強い星へ神威が降りて来た事に驚いて、が山を飛び降りる。
「この星、私に任せてくれるんじゃなかったっけ?」
 陽光が強いため、阿伏兎の案でが単身討伐に訪れていたのだった。
 地球人との混血であるは、夜兎族の唯一の弱点である日の光への耐性を持つ。決して無害というわけではないが、長時間でなければ直に浴びてもけろりとしているのだ。
 今も地球以上に紫外線が強い場所であるのに、日傘も持たず両手に武器という勇ましい井出たちで神威を迎えた。
「いや、の顔が見たくなってさ」
 と、神威は眩しそうに目を細めてを見た。
 なにそれ、と呆れるその顔。だが、日差しの強いこの星では、神威はその姿を直視する事すら出来ない。の銀の髪がきらきらと輝いて、眩しくて目が潰れそうだ。
「計画変更だよ。俺も手伝うからさっさと片付けよう」
 急かす様に手を引いて、神威はずんずんと敵の最拠点へと向かった――――
「私ひとりでも大丈夫だったのに」
 敵の拠点をあらかた一掃し終わり、足元には潰された躯ばかりが折り重なっていた。その中のほとんどは素手で仕留められており、の銃器や刀よりも神威の方がより多く仕留めた事を意味している。
 の拗ねたような顔は、神威が自分の力を信用していないと勘違いしてのものなのだろう。制圧が遅いと不満に感じ、神威が戦艦から降りて来たと思ったのだ。
「違うよ」
 子供のように拗ねているに少しだけ優越感を感じながら、神威は首を横に振るう。
「これは全部、がやったんだよ」
 自分の足元に崩れ落ちた躯を転がしながら告げた神威に、は怪訝そうな表情を寄越す。
「なんで?」
 実際にはの仕留めたのは全体の四割だ。その結果を自分自身で理解しているからこそ、の不機嫌はこうして現れているのである。
 神威は子供を諭すような優しい声音で告げる。
「俺はの武器だから」
「……武器? 神威、私が武器使うと嫌がるくせに」
「そうだね」
 夜兎族が日傘以外の武器を持つのは、小賢しいと神威は感じる。素手が一番強いと知っているのに、膂力の影響しない武器を持つなど愚の骨頂だと。
 が父親の刀に囚われているのも、神威は気に喰わない。そんなものはさっさと捨てて、獣は獣らしく振舞えばいいのだと思う。
 だが、が武器を捨てられないのだと知っているからこそ、ジレンマとなって、自分もその内の一つになってしまう。最凶の武器に。
「俺は装填された銃にも、研ぎ澄まされた刀にもなるよ。の目の前に立つ奴は、いつでも俺の第一殺害候補だ」
 今のように。傘を手にしたハンデすらいともせず、簡単に敵を掃討してみせる。
は俺の名前を呼ぶだけでいい。そうすれば俺は、いつでも君の最高の武器だ」
 忌まわしい刀にも、火薬臭い銃にも負けない最強の武器になる。
「名前なんて呼ばなくたって、勝手に来て勝手に暴れるくせに」
 真理を突かれて神威はそうだね、と可笑しそうにけらけらと笑った。
 そして、早く戻ろうよとでも言うように、の手を繋ぐ。は相変わらず拗ねたような顔をしていたが、黙って神威に手を引かれた。
「綺麗だけど、あまりいい場所じゃないね」
 ふと、神威が独り言のように呟いた。
 この星では、と神威の境界は明確に目にして分かる。繋いだ指先さえ、は光の下に、神威は日陰の元に、くっきりと分かれている。
 包帯を厳重に巻いた自分の指を、神威はひどく醜いものに感じた。
 夜兎の日光に弱い肌を、忌まわしいと感じる事はあっても、恥じた事など一度もなかった。だが、今こうしての輝く指先と指を絡めていると、どうして自分はと一緒になって太陽の下を大手を振って歩けないのだろうと不思議に思えてくる。
 陽の下も、月光の下も大差ない。抱き合うのなら暗闇の方が都合が良いのに、ここで自由に振舞えない己の身体が、ひどく不都合で劣っているように感じた。
「不恰好な血塗れの兎には、女神様は眩しかったのかな……。だったら一緒になれても、兎はちょっと悔しいと思ってたかもね」
 そんな独り言を呟いて。
 が怪訝そうに聞き返すのも無視して、神威は乱暴な仕草での身体を引くと、自分のマントの下にの身体が覆い隠れるように、すっぽりとその身体を日差しから隠した。




end


武器を捨てられないのなら、
俺が一番の武器になる。