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!CAUTION!
この話には暴力的な表現が含まれています。
ヒロインがドS傾向にあります。
また、捏造、オリジナル設定が多数含まれて居ます。
苦手な方はお戻りください。




















月夜に兎・白の女王05





「あーあ、阿伏兎がぐずぐずしてるから」
 心底残念そうに神威が言った。
「残念。この男がどんな顔で死んでいくのか、見てやりたかったのにな」
 と、床の上で絶命した青白い肌の天人の頭を、靴の先で小突いて見せる。
 もはや阿伏兎には何が何だか分からなかった。
 神威の案内で移された白兎の部屋に導かれると、そこはすでに全てが終わったかのように無数の躯しか残っていなかった。
 躯の中にのものはない。となると、この惨事を招いたのはなのだろう。
 部屋の中には実に、三十体近い躯が転がっている。
 ブローカーの男を初めに、その部下と思わしき者、そして檻の中で絶命している白兎たち。
 ことごとく殺されていた。その切り口がすべて同じ、刃渡りの長い刃物である事から、一人の犯行と考えて間違いないだろう。
 だが、神威の着眼点は阿伏兎のそれとは異なっていた。
「生きるのが辛かったんだね」
「あ?」
「わからない? 白兎はみんな内側で死んでいるよ。じゃない」
 見れば檻の中で絶命している兎達は、血塗れではあるが斬撃を受けた様子はなかった。流れ弾にあたった者もいるようだが、それは致命傷ではない。
 血に染まった指先に、掻き毟ったような喉もとの跡。
 まさか、と阿伏兎が呟く。
「自分で死んだのか……?」
 いや、と己の問いをすぐさま阿伏兎は否定する。
 ここで死ぬ意味とはなんだ。そもそも白兎に自殺など出来る自我があるのか。女王のクローンだから知能も高かったのか。だが、そうだとしてもこのタイミングで死ぬのは何故だ。
 阿伏兎の疑問に応えるように、神威はさぁねと肩をすくめた。
「考えたって仕方ないよ。とりあえず、この子達が辱められる事はなくなった。それだけさ」
 阿伏兎は沈黙のまま神威を睨みつける。
「アンタ……」
「阿伏兎はを追いなよ。ここの始末は俺がつけるからさ」
「始末ってどうするんだ……? アンタ、こいつと手を組んでたんじゃないのか? それに、追いかけて……どうする? 元老にでも売るのか?」
 質問を重ねた阿伏兎に、神威はまさか、と首を振って笑って見せた。
 有り得ない、と続けるその顔はいつも通り、独占欲と支配欲に満ちた男のそれで、阿伏兎はますます分からなくなる。
 神威はを愛している。
 愛などという言葉はこの男にひどく似合わないし、それが常人の理解できる範疇のものでない事も知っている。だが、にまつわる執着は、おそらくそういう言葉で表現するのが一番分かりやすい。
 なのに――――神威の行動は支離滅裂だ。
 なぜ、をここに導いた。なぜ、を白兎と遭遇させた。
 困惑する阿伏兎を嘲るように神威はくすくすと笑みを零すと、
「俺はだけの味方だよ」



 調子の悪いテレビのように、脳裏を白黒の砂嵐が覆っている。
 思考をうまく保てない。血を失いすぎたのか、足取りがおぼつかない。
 惨劇が脳裏で何度も繰り返す。
 それは自分が屠った見知らぬ星の天人ではなく、白兎たちが躯になる瞬間ばかりをに見せる。
 毒に侵された兎たちは、声の出ない声帯を震わせて狭い檻の中をのた打ち回った。すでに天人の男は死んでいて、解毒剤の所在は知れない。
 救う方法を持たないには、楽にしてやる事しか思い浮かばなかった。
 だが、が刀を掲げた瞬間、白兎たちはまるで何かを察したように、自ら喉を掻き毟って死んでいった。一匹死に、二匹目が死に、まるで死が感染するように次々と死んでいく。自我を持たないはずの白兎が、集団自殺を行ったのだ。
 アレは何だったんだろう――――
 なぜ、白兎たちは死んでしまったのだろう。
 私が拒んだから? 私が母さんの娘だから……?
 分からないし、どうでもいい。
 どうせあれは紛い物だ。母と同じ顔をしているだけの、物だった。
 関係ない、知らない、要らない。
 明日になればどうせ忘れてしまう。今更、何人の命が目の前で果てたって、そんなものに心を揺るがしたりしない。道の端で潰れる蟻のように、その生死がどうであろうと自分には影響はない。
 なのに――――砂嵐の向こうに、わずかにちらつく映像が忌々しくて仕方が無かった。
 母親と思わしき輪郭。父親と思わしき陰影。それから――――
 は頭痛に負けるようにぐらりと体勢を崩した。
 その瞬間、飛空艇手摺をするりと乗り越えて、の身体は真っ逆さまに落ちていく。
 夜の訪れた江戸の町は色とりどりのネオンを輝かせ、星のように綺麗だった。




end


そして「墜落少女」へ。
結局、神威の思惑はわからないまま次章へ続きます。
「白の女王」完結、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!