この話には暴力的な表現が含まれています。
ヒロインがドS傾向にあります。
苦手な方はお戻りください。
月夜に兎・白の女王02
「ちっ、役立たずが」
阿伏兎はがりがりと頭を掻き毟ると、無線機の先で慌てる部下を罵倒してやりたい気持ちになった。
ロクな盾にもなりゃしねぇ。
最悪の中の最悪の結果だった。
阿伏兎は船を去る前に、十分に今回の仕事の取扱には気をつけたつもりだ。当然、の目に付くような所に、情報は残していない。仮にが仕事用のPCを漁ったとしても、阿伏兎の作った偽の情報を見てそれで納得するようになっていた。
そして、万が一が真相に気づいたとしても、部下たちがを止める手はずになっていた。それが足止めにすらならず瞬殺とは、第七師団の名が泣く。
とは言え、死体の後片付けをしていかなかった所を見ると、もだいぶ冷静さを欠いているのだろう。仲間の死を知った団員がすぐに阿伏兎に報告し、先手を打たれるという可能性を考えていない。
あるいはどんな邪魔が入っても、叩き潰す自信があるのか――――まったく厄介この上ない。
「とりあえずお前はバカ共の後片付けをしとけ。団長に知られると更に面倒だ。は俺が何とかする」
それだけを手短に伝え、阿伏兎は通信を切った。
戦艦から地球までは軽く見積もっても半日はかかる。それまでは対策を講じる余裕があるはずだ。
何があったとしても、神威に知られるわけにはいかない。唯でさえこの男は気が立っている。お偉方の集まる場でこれ以上の粗相は、お守りの阿伏兎としてはご免こうむりたいのだ。
「へぇ、これを吉原でねぇ」
そう格子越しに中を覗き込んだ神威の声は、いつも通り朗らかな声音に聞こえた。だが、その後ろに佇む阿伏兎は気が気ではない。
神威は苛立っている。これ以上ないくらいに。
その理由は――――檻の中で蠢く生き物を見れば、言わずもがなだ。
「今回はお披露目という事ですから、選りすぐりを選ばせていただきました。神威団長もよければお一つ」
「あははっ、選ぶもなにもみんな同じ顔じゃないか。それに俺は恋人一筋」
「おっと、これは失礼致しました。しかし、このような星での長期滞在では寂しい夜もおありでしょう? もしお入用な時はぜひ私どもへ……」
この馬鹿はどうしても死にたいのかと、阿伏兎は呆れ返ってしまった。
その恋人一筋の言葉がどういう意味か、この場に居て理解できないのはブローカーを名乗るこの男だけだ。青白い肌は夜兎のものとは似つかない。品種改良を施されたとは言え、余所の天人に夜兎の女が売られるのは気分の良い物ではなかった。
神威と阿伏兎の二人は元老のお付で招かれただけだったが、急遽来れなくなった幹部の代理人でこの場所へ通された。
内装だけ見るならば西洋風の城のような豪勢な作りだったが、ベルベッドのカーテンの向こうには、人が蹲れる程度の檻がいくつも重なって並べられていた。
その檻にはまった鉄格子を撫でながら、天人の男が笑う。
「いかがです、我々の商品は。美しく、主人に従順で、どんなに乱暴に扱っても壊れない理想の玩具です」
瞬間、神威のサファイアの瞳がきゅうっと縮まり、猫のような瞳孔が檻の中のそれを凝視した。
白い髪に紅い瞳の白兎の女たち。四肢を伸ばしたその身体に生気はなく、自我のない瞳がじっと檻の向こうから見つめている。服は着ておらず、成熟した女の身体に不釣合いな鉄の首輪がはめられているだけだった。
そして何より、神威の苛立ちの一番の原因は――――似ているのだ。写真では分からなかったが、にどことなく顔の造詣が似ている。白兎だからという理由だけでなく、まるで親兄弟のような面影を持つそれに、神威の苛立ちは絶頂に至った。
この兎達が今日の晩には、皿の上に並べられ、銀河中のエロジジイ共の供物になると思えば、神威が未だ暴れ出さないのが不思議なくらいだった。
白兎は白兎と割り切っているのか、立場を弁えて大人の対応が出来るようになったのか、阿伏兎には判断が付かない。とにもかくにも、早くここから出るべきだ。阿伏兎はそう考えた。
「見学はこのくらいで十分だろ。吉原のお偉いさんにはうまく話はつけてやる。俺達も護衛っつう本職があるんでな」
「ええ、それは勿論。お時間をとらせてしまい、申し訳ございません」
いちいち慇懃な男の口調が癇に障ったが、阿伏兎は黙って踵を返した。
頭の中ではへの対策をさっそく考え始めていた。が乗り込むのがセレモニーが始まる頃だと考えると、この辺りの警備は手薄になる。侵入者が春雨の団員と知れれば厄介ごとが増えるだけだし、その方が阿伏兎にとっても都合がいい。この部屋にたどり着く前にを止める――――多少痛めつけても、それがのためでもある。
そう阿伏兎が心に決めた瞬間、ねぇ、と神威が思いついたように声をかけた。
「この子達さ、どうしてみんな同じ顔をしてるの?」
阿伏兎はどきりと心臓を跳ねさせた。余計な事聞きやがって、と胸中で毒づく。
そんな事を聞いてどうするのだ。どうせ神威にとって不愉快な情報でしかないと言うのに。
だが、ブローカーの男はそれはですね、と営業スマイルを貼り付けて、饒舌な口調で説明を始めた。
end
春雨と兎売りは繋がってます。
が、夜兎二人組にとって他人の商品にケチはつけないけど、
同族としていい気分はしないでしょう。
さあ、波乱の幕開け。