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 空から降って来るものなんて、大抵どこでも決まっている。
 雨。雷。鳥の糞。
 戦場なら弾道ミサイル。ゲームならカプ○ン製のヘリコプター。ロマンチックに答えれば、流星群なんてのもありっちゃありだ。
 だからこそあえて言おう。
 大抵の物はもう落ちつくしている。
 今更、空から何か降ってきたって、よほどの物じゃなければ驚かない。戦艦だろーが、サイヤ人だろーが、そういうのはもうジャンプの漫画的にやり尽くしちゃっているわけで。
「……どちらさんスか?」
 万事屋の天井にでっかい穴を開けて降って来たそれを前にして、俺が殊のほか冷静に対応したのはそんな理由があるわけで。
「どちら様でしょう?」
 と、質問に質問返しで応対されても、冷静な俺は米神を軽く押さえるだけで済んだ。
 このパターンはあれよ。
 もう定番の定番。使い古されて、今更まっとうな漫画家なら使えないようなネタ。
 空から落ちて来た女の子ってやつ。



月夜に兎・墜落少女





 あのねぇ、と銀時は前置きして、手にしたパフェ用の細長いスプーンをびしっと向けた。
「そう言うのもう流行らないから。もう、みーんなやってるからね。飛行石とか持ってるくらいじゃ、もうぜんっぜん珍しくないからね」
「さっちゃんもやってたアル」
「そう! それよ、それ! だから、ウチに落ちて来たって、もう二番煎じなわけ。そこんトコ分かってる? えっと……」
さんですよ、銀さん」
「そう、チャン。だから落ちるなら別の所に落ちなさい。むしろ、落ちる所で他のヒロイン群と差別化を図りなさい……って、聞いてんの、オイ!?」
 ダンッ! と拳をカウンターに叩き付けると、もくもくと茶碗の飯を口にかき込んでいたが、きょとんとした目を銀時に向けた。
「はい、聞いてますよ。えーと……」
「銀時」
「はい、銀時さん」
 にこりと微笑んで、またガツガツと飯を口にかき込む少女に、銀時は深いため息を付いた。
 こいつきっと分かってない。全然分かってない。
 自分がどれだけ在り来たりで、そして面倒を呼び込む存在なのかを、まったく分かっていないのだ。
 空から降って来た女の子。これだけでもうフラグが一つ、二つ簡単に立つというのに――――
「あんた、名前以外思い出せないって本当かい?」
 カウンターの向こうから問いかけるお登勢の言葉に、銀時はがっくりと肩を落とした。
 そうなのだ。
 天井に穴をぶち開けて降って来たこのという少女は、名前以外一切の記憶を失っているのだと言う。落下時のショックか、落ちる前の何かが原因なのか知らないが、とにかく“記憶喪失”という要素が唯でさえ多いフラグを乱立させまくる。
 断言していい。
 こいつは面倒を呼び起こす。悪の組織に追われているんだか、ラピュタの生き残りだか知らないが、必ず失われた記憶を巡って厄介事が起こると断言できる。
 しかも――――
「困ったねぇ。持ち物はその刀だけかい? しかも血塗れで落ちて来たって、何があったんだろうねぇ」
「ぐあああああああああ、だから、そこ! 余計なフラグ立てんじゃねェェェェェ!」
 銀時は頭を両手で抱え込むと、お登勢に向かって獣のような咆哮を上げた。
 曰くありげな持ち物に争った跡と続いたら、これはどこぞの組織が絡んでいるに決まっている。秘密結社だかドーラ一家だが知らないが、必ずその手の輩が現れるに違いない。
 そして偶然その場に居合わせてしまった主人公一行は、悪の組織(仮)との戦いに巻き込まれていくのだ。
「おいっ、飯食ったらさっさと警察行くぞ」
 銀時はふうっとため息を付くと、溶け掛けた目の前のアイスクリームに銀のスプーンを付き立てた。
「でも、銀ちゃん。のこと、なんて説明するネ? 悪い奴らに追われてるって言ったら、親方みたいに助けてくれるアルか?」
「知らねーよ。んなモン、後は警察の仕事だ」
 冷たく言い放つと、神楽はむうっと顔を膨らませた。銀ちゃん冷たいアル、と恨みがましい視線を送ってくる。
「まあまあ、神楽ちゃん。ここに居ても僕らじゃ何も出来ないし」
 むくれる神楽を新八が宥めると、三人の間に入るようにがあの……、と遠慮がちに声をかけた。
 三人とお登勢の視線が空の茶碗を持ったに集まると、は困ったような笑みを浮かべたまま、
「警察はちょっと……」
 瞬間、銀時の手の中で、ばきりとスプーンが砕けた。
「何がちょっとだ、フザけてんのか、テメェ! なんでそう、ワケありですみたいな事ゆーわけ!? そんなコト言うと、来ちゃうでしょ! ドーラ一家とか、ムスカ大佐みたいなのがホントに来ちゃうでしょ!?」
 もういい警察連れてくわ! と、銀時は声を上げると、無理やりの腕を掴んで引っ張った。は引きづられるように銀時の後ろを付いて歩いたが、ガラリとスナックお登勢の扉が開いた瞬間、の身体はまるで危険を察知した猫のように、素早くテーブル席の裏に潜り込んだ。
 おい、と銀時が咎めるようにを目で追った瞬間、
「チッ、真昼間からこんな所にたむろしやがって。無職は気が楽でいいな」
 聞き慣れた低い声が前方から響いた。
「あー、えっと、ムスカ大佐?」
「誰がムスカ大佐だ」
 ダークカラーのスーツではあるが、くわえタバコの顔をしかめて見せる姿は到底件の大佐とは似ても似つかない。むしろ似ているのは首もとのスカーフくらいか。
 そこには彼らの良く知る真選組副長、土方十四郎の姿があった。
 こいつが自分たちの元を訪ねるとは珍しいと訝っていると、土方は仏頂面のまま銀時の前に一枚の紙を差し出した。カウンターに座っていた神楽と新八が、興味深そうに銀時の背後から紙面を覗き込む。
 若い女の似顔絵である。お世辞にも上手いとは言えず、特徴的な人相には見えない。
 が、その白黒の顔の上には、白のチャイナドレス姿、黒の刀を所持と詳細があり、大きく“お尋ね者”と記されていた。
「んなっ!」
 ぐわっと口を開けて硬直する三人を無視して、土方はスパーと口元から紫煙を吐き出す。
「昨夜起こった、空中楼閣・天涯号襲撃の犯人だ。目撃者の証言では、歌舞伎町付近に潜伏しているらしい」
 潜伏って言うか、テーブルの下に潜んでるんですけどオオオオオ!?
 ちらりと視線を背後にやると、テーブルの下で膝を抱えているがじっと緊張した面持ちで土方の姿を見つめていた。
 だが、土方はの存在に気づかない。
「てめぇらも一市民なら、たまには警察に協力しやがれ」
 と言い残すと、早々に去って行った。
 土方の足音が遠のくと、はゆっくりとテーブルの下から這い出た。
 顔を険しくさせて己を凝視する三人に向かって、にこりと微笑みかけると両手を胸の前で組み合わせ、
「どうか助けてくれませんか?」
 空から落ちて来た女の子らしく、主人公一向に助けを求めたのである。




end


「月夜に兎」新章開始です!
ラピュタネタ多くてすみません!
空から落ちてくる女の子で、真っ先に思いついたので。
「月蝕シンドローム」から話が飛んでますが、
時系列的には間に別の話を挟みます。