この話には暴力的な表現が含まれています。
ヒロインがドS傾向にあります。
苦手な方はお戻りください。
普段、子供のようなあどけない顔をしているくせに、時折それが途方もない闇に染まる。
透明な無邪気さが消え失せて、代わりに残忍さと悪意が苛立たしげな表情の中に同居するようになる。
眼差しは冷たく、表情は凍り付いて人形のようになる。夜兎独特の透き通るような肌の白さが、尚更それを無機質に見せる。
時折それが笑ったかと思いきや――――獲物をいたぶって愉悦の笑みを浮かべているのだ。
ああなるともう、手がつけられない。
「まァた、悪い顔しなさって」
阿伏兎はため息を付きつつも、巻き込まれないようにと一歩後ろへと下がった。
月夜に兎・月蝕シンドローム
叩き込まれた爪先に、躊躇いなど存在しなかった。自分よりも遥かに背の高い男の顔面にブーツの先を叩き込み、地面に引きずり倒す。
仰向けに倒れた所を容赦なく踏みつけ、靴裏いっぱいに重力をかけて圧迫した。
べき、ごき、と鼻の骨が粉々に砕かれる音がする。
「がっ……! ぎぃ、この……クソあ、ふぐっ!?」
クソアマ、と続けるつもりで開かれたであろう口に、は固い銃口を無慈悲に突っ込んだ。喉奥まで入れられて苦しそうにえずく男を、冷ややかな眼差しで見下ろす。
「もう一度、言ってみなさい?」
冷え切った声で促す。
「私のこと……なんて言ったの?」
ほら、と声をかけるが、銃口を食わされた男が口を利けるはずもなく、ウグッとかムゴッとか言う不明瞭な声が返って来るだけだった。
はわざとらしく耳をそばだてて、
「なあに? 聞こえなぁい」
茶化すような笑い声を上げて、喉奥に何発もの銃弾を撃ち込んだのだった。
時たまはおかしくなる。
三月に一度、多い時はそれよりももっと――――月蝕のように心が闇に染まる事がある。
総じて苛立たしげにしている事が多く、そういう時は人を一切寄せ付けない。
近寄ったら殺す。触れたら殺す。寄るな。触るな。話しかけるな。気分が悪い。
そんな一方的な拒絶を殺意と一緒にガンガン垂れ流し、唯々何かに耐えるように不機嫌な顔でじっとしているのだ。
会話もほぼ通じない。返答には、死ねば? と、殺すよ? だけで答えるという、恐ろしいほどのコミュニケーション能力の低下。加えてSッ気にも目覚めてしまうのか、性格が残忍になる。仕事で星を掃除に行くと、普段の“殺しすぎない”のモットーを忘れ去ってしまったかのように執拗に殺すのだ。
傷口を更に押し広げるように同じ場所を穿ち、あらゆる殺し方を出し惜しみ無く披露してみせる。
銃殺、刺殺、絞殺、焼殺、圧殺、斬殺、毒殺、撲殺、轢殺、爆殺――――それをいくつも同じ相手に試そうとするのだから、途中で身体が損なわれてしまうのは仕方が無い。
流石にやりすぎだ、と一度阿伏兎が諌めた事があったが、その時は嗤いながら喧嘩を売られた。
「煩いよ……。阿伏兎も死にたい――――?」
凶悪に歪んだの顔を前に、阿伏兎は米神に青筋が浮かぶのを自身で感じた。ふつふつと怒りが込み上げて来て、このクソ餓鬼が! と傘の切っ先をに向かって振りかざしていた。
何が原因かは知らないが、生意気な小娘に灸を吸えてやるつもりだった。
だが、阿伏兎の振り上げた傘が届く事はなく――――二人の闘争を制したのはあろう事か団長である神威だった。
「二人とも……いい加減にしないと、殺しちゃうぞ?」
と、あの殺人的な笑顔を向けて、言い放ったのである。
てっきりはそのまま神威に噛み付くと思われたが、は詰まらなそうな顔で神威の笑顔を眺めて、そのままふいと踵を返して行ってしまった。
「ったく、なんだありゃあ」
冷静さを取り戻し、流石にとやり合ったのは拙かったと阿伏兎は後悔しかけたが、それにしてものあの態度は解せない。数日前までいつも通りの純粋な少女だったと言うのに、今や真っ黒に染まって悪魔のような悪い顔をする。
「アンタ、心当たりがあるんじゃねェか?」
と、神威に話を振ると、神威は依然ニコニコとしながら、
「んー、あの日じゃない?」
などと本人が耳にしたらブチ殺されそうな事を、軽々しく口にしたのだった。
そんなわけで、は意味も分からぬまま、時たまタガが外れてしまう。
end
「月夜に兎」新シリーズです。
破壊衝動をもてあますヒロイン。
「凶月を抱く」と似ていますが、とりあえず別設定です。