月夜に兎・殺シ之作法04
「で、散々アジトをぶっ壊しまくったあげくに、昔のオトコを忘れさせられなかったってか。何をしやがってるんでしょうかねぇ、このアホ団長様は」
散々に嫌味をたっぷりと込めて、阿伏兎は瓦礫の山に独りぽつんと座った神威に言い放った。
アジトと言っても商談に立ち寄った星に一時的に滞在するための仮宿だ。大事な戦艦に穴を開けられるよりは遥かに良い。
が、喧嘩するなら外でやれという苦言を、いつになっても聞かないこの馬鹿どもにはほとほと呆れる。一体今までどれだけの修繕費が湯水の如く流れていった事か。
「結局、刀を取り上げるどころか、ますます手放しづらくさせたってか。馬鹿だねぇアンタ」
あの刀にそんな逸話が隠されていたとは、当然阿伏兎の知る由も無い事だったが、何か触れてはいけないものがあるのだという事は感じ取っていた。そして、それがおそらく良い感情に起因するものではない事も。
神威とて馬鹿ではない。他人の心の機微に気を配るかどうかは別として、の胸中の傷を感じ取っていただろうに。
否――――だから尚更なのか。
尚更、がそんなものに縛られるのは許せなかったのか。
「ったく、嫉妬深い男は嫌われるぜ?」
嫌味を込めて言うと、神威はいつも通りの飄々とした表情。大丈夫だよ、と余裕に満ちた顔で返す。
「刀は奪えなかったけど、俺がそれ以上の物でを独占すればいいんだ」
さらりと傲慢な独占欲を口にした神威に、阿伏兎は心の中でとっととフラれちまえと毒づいた。
が、それが無為な祈りであり事を阿伏兎はよく理解している。
遠く、瓦礫の山の向こうに、鮮やかな朱色の日傘がくるくると回っている。
金箔を散らし、薄紅の桜が描かれたそれは、戦闘用の傘というよりはむしろアクセサリーとして持ち歩く事を重視して作られたであろう、美しい造形をしていた。柄の先には兎を象った翡翠の飾りが――――傘を回すたびにゆらゆらと揺れる。
「ま、アンタにしちゃ悪くねぇな」
女への贈り物など選べたのかという驚愕を、そんな負け惜しみの言葉で誤魔化して、阿伏兎はくるくると回る傘を眺めた。
鮮やかな赤はの銀の髪によく映える。
「いいオンナじゃねぇか」
思わずぼそりと呟いた阿伏兎の言葉に、神威は嬉しそうに笑みを零した。
「だって、俺のオンナだからね」
end
刀は奪えなかったけど、傘をプレゼントしました。
これにて「殺シ之作法」完結です!
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!