どれくらいスキ? 世界で何番目にスキ?
そんな下らない質問と要は一緒なのだ。
女というのは時として、そういう下らない言葉で愛とやらを確かめたがる。
境界・後編
下らねェなあ、とできる事なら呟いてしまいたかった。
バカップルの痴話喧嘩に付き合わされる身にもなってくれ。しかも、言い合いや物の投げ合いみたいな可愛いものではなく、この二人の喧嘩は常に血と破壊と暴力が付きまとう。
それに巻き込まれて、つい先日団員が何人かお亡くなりになったわけだが、それを忘れちまったンですかねェと、毒を吐きたくなった。
が逃げ出した。
何が原因かは知らないが――――どうせ下らない理由だと思うし、知りたくもない――――散々に戦艦を壊しまくった挙句、一人乗り用の船を盗んで、どこかの星へと逃げてしまったのだ。
放っておけばそのうちひょっこり帰って来る、男はこういう時慌てずに堂々としているもんだぜ?
そう、年長者の役割として神威に教えてやった。
だが、我等が団長様はいつもの如く阿伏兎の忠告になど一切耳は貸さず、それはそれは堂々とした態度で単機で星狩りに向かってしまったのだ。
そして数日後、を抱えて帰って来たわけだが――――傘も持たずに飛び出したせいか、しっかり日の光を浴びてぶっ倒れてしまったのである。
果てさて、どこから突っ込んでやればいいのか分からない。
「本気なんかじゃなかったんだろ?」
阿伏兎の問いに、椅子にぐるぐる巻に括り付けられたは不思議そうな顔をした。
逃がすな、という団長からの厳命なので、意味があるかは分からないが、の身体は椅子ごと鎖で縛り付けている。本人も多少は反省しているのか、逃げる様な素振りはせず大人しく阿伏兎に従っていた。
「団長がアンタを追って来るかどうか、確かめたかっただけなんじゃないのか?」
「それは……」
口籠る時点で、十中八九当たりだ。
まったく以って若さ故なのか、自分の浅はかさに気づいてくれと苦言を呈したくなった。
「どうして女はこう、男を試したがるモンなのかね」
阿伏兎の昔付き合っていた女もそうだった。
好きだの愛してるだの、言葉にして欲しいと強請って来る。それも一度だけじゃなく、常に定期的に囁いてやらないと駄目らしい。
ガキじゃあるまいし、乳繰りあってりゃ十分じゃねぇかと思うわけだが、それが見たされないとやれ愛が薄れただの、身体目当てだのと泣き叫ぶ。
結局、面倒臭くなってさっさと関係は終わらせてしまったわけだが、年を重ねてからあれはあれで可愛げがあったのではないか、とようやく思うようになった。
もっとも――――それでも面倒くさいと思う事に変わりはないわけだが。
「しかし、アンタはもっとクールだと思ったんだけどなァ」
クールと言うより奥手と言うべきか。恋愛経験が乏しい分だけ、はその手の感情には無頓着なのだと思っていた。
そもそもバランス的に神威の方が押し気味なのだし、がそれを疑ったりする事の方が意外だった。
あれだけ与えられて他に何を欲しがるのか――――女というのは、やはり不可思議な生き物だ。
「だって……なんだか、不公平な気がして」
「あん?」
「私は神威のモノなんでしょう?」
「ん? ああ……」
そういう事になっている。
モノという言葉にどういう感情が込められているかは知らないが、とりあえずこの戦艦の中では神威の所有物扱いだ。
つまり、誰も手出しは出来ないし、誰も干渉出来ない。
神威だけがその自由を奪い、拘束し、触れる権利を持つ。
「まあ、愛人扱いがイヤってんなら分からなくもないが……」
言いかけた言葉を、がそうじゃなくって、と遮った。
「私は神威のモノ。じゃあ、神威は誰のモノ?」
の言っている意味が分からず、阿伏兎はぱしぱしと瞬きを繰り返した。
「まぁ……そりゃあ多分、団長自身のモノだろうな」
「でしょう?」
咎めるように唇を尖らせてが頷いて見せる。
あの掴みどころのない神威が誰かの物になるなど考えられない。囲いも檻も有りとあらゆる束縛を、笑いながらブチ壊してしまいそうな奴なのだ。
「だから不公平なの。私ばっかりいつも……」
「待て。待て、ちょっと待て」
阿伏兎は米神を抑えて、ああ……と呻き声を上げた。
まあ、もとより大した理由だとは思っていないが――――
不機嫌そうなの顔を見るに、これでも真剣に悩んだりしたのだろう。相談出来る相手もいないし、自分の心の中でそれがどんどん燻っていってしまった事も容易く理解できる。
だが――――いや、しかし、それは。
「アンタ話す相手を間違えてるぜ? それこそ団長に言わなきゃダメだろ」
は憮然としたまま、だって、と拗ねたような顔を見せる。
「だってもさってもねェんだよ。ったく、下らねェ」
阿伏兎はがりがりと頭を掻き毟ると、の鎖をパリンと音を立てて外してやった。
「いいの?」
阿伏兎は面倒臭そうに頷くと、さっさと行きやがれと手を振って見せた。は怪訝そうな表情を作りながらも、駆ける様に去って行く。
その背中を眺めながら、阿伏兎は盛大にため息を漏らす。
馬鹿馬鹿しくって仕方が無い。それこそ愛情とやらを確かめるなら、仲良く乳繰りあってりゃいいのだ。
「二人揃って爆発しやがれ」
祝福とも悪態とも付かぬ言葉を吐きながら、阿伏兎は独り肩をすくめた。
end
「私も神威を独占したい」
この二人は神威の方がバランス的に強いので
たぶんそんな事言われたら、逆に照れて挙動不審になってしまうと思う。