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いい女の条件・後編





「なにソレ?」
 阿伏兎の質問に対し、神威の反応は恐ろしく予想通りのものだった。
 阿伏兎の方に一瞥をくれ、下らないと言いたげに頬杖をついた顔をしかめてみせる。
「いいから教えろよ。いい女の条件ってやつ」
 神威のそんな反応すらも可笑しくて、阿伏兎の唇にはついニヤニヤといやらしい笑みが浮かんでしまう。神威は阿伏兎の顔を不機嫌そうに眺めながら、
「俺にはそんなものないヨ。強いか弱いだけ。そもそも女に興味なんてない」
は?」
は特別だよ。女は女でもは特別製」
 ほら見ろ、と阿伏兎は笑いをかみ殺しながら、独り悶々と悩んでいたに向かって胸中で呟いた。
 神威の中にはしか存在していない。良いとか悪いとか言う以前に比較対象がないし、神威のベタ惚れっぷりは疑い様のない事実だ。
「前から聞きたかったんだが、アンタどこに惚れたんだ?」
 せっかくだからこの際聞いてやろうと話を振ると、神威はますます不審そうに顔をしかめた。だが、意外にも素直に語る。
「俺への殺気の深さ。この俺に向かって獲物を狩るみたいな殺気を向けて来た所かな。生意気だよね」
 ああ、と相槌を打って阿伏兎は二人の出会いを思い出す。
 そういえば、は最初神威の命を狙っていたんだったか。殺し屋だかなんだか知らないが闇の稼業に就いており、神威が暗殺のターゲットだったのだ。
「殺す事への貪欲さとか、殺意の素直さとか。そういう所も気に入ってる」
 確かに――――の戦い方は形振り構わない。何を使っても、どう用いても、殺すと言う目標に向かって一直線に向かう。
 だからこそ、武器をデタラメに使うくせに、その殺し方は綺麗だ。無駄に壊さないし、余計な物も巻き込まない。ただ、対象だけを死に至らしめることに全精神を集中させている。
「他には?」
「ほか?」
 殺人関連ばかりじゃあねェか、と続きを促したが、神威はきょとんと目を丸めただけだった。これが俺の愛情すべてだと言い切るような、妙に自信に満ちていた顔が途端に呆ける。
「他にあんだろ。あー……可愛いツラしてるだとか、いいカラダしてるとか」
 何だか口にして、阿伏兎の方が恥ずかしくなってしまった。
 神威はああ、と合点がいったように手を叩き合わせると、
「泣き顔がカワイイ。顔真っ赤にして涙ぐんでたりすると、ついついもっと苛めたくなっちゃうよね」
「ドSか、アンタ」
「あとは……逃げ足が早い。たまに小賢しくてしたたかで、嘘がヘタクソ」
「それ褒めてんのか?」
 勿論、と神威は満面の笑み。
「とにかくさ、は俺にとって特別なんだよ。可愛いとか、綺麗だとか、性格良いとか、仕事が出来るとか――――そういう普通の事は、俺にとってどうでもいいんだ」
 阿伏兎は少し面食らって片眉を上げた。
 そういう普通のいい女の条件に当てはまりそうな項目を、神威が認識していた事に驚いたのと、彼のへのベタ惚れっぷりを再確認して驚いてしまったのだ。
 ほら見ろ、と阿伏兎は心の中で呟く。
 この人にとっちゃ容姿だとか身分だとか、関係ないじゃねェか。この人にはアンタしか見えてねェよ――――





「ねえ、阿伏兎に聞いたよ? いい女になりたいんだって?」
 徐に切り出した神威に、は挙動不審なまでに泳いだ視線を送った。
 阿伏兎! 黙っててって言ったのに!
 さっそく約束を反故にした同僚を、今度見かけたらどうしてやろうかとが黒い妄想を広げていると、神威の両腕がを抱き寄せた。
 くすくすと、妙に上機嫌な顔で笑う。
「必要ないのに。これ以上いい女になられたら、変な虫が沸いて煩いよ」
 ま、そんなヤツは俺が殺してやるけどさ――――
 一瞬、殺意を滾らせるも、すぐにそれは甘やかな空気に掠れてしまう。
 馬鹿みたいに自分は上機嫌だと自覚する。
 この身は以外の女を添わせるつもりなどないと言うのに、ぞれを不安に思って独り悩んでいたなんて。
 馬鹿だなぁ、と思いながら、それが嬉しくて仕方がない。
 有頂天になるなと言う方が無理だ。
「君はもうジューブン、俺にとっていい女だよ」




end


なんか変に甘くなった。