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いい女の条件・前編





 いい女の条件ってなに? と至極まじめな顔で聞いて来たから、乳と尻が大きくて健康そうなオンナと答えると、容赦なく殺気を宿した蹴りが飛んできた。
「あぶねェなぁ」
 それを紙一重でかわして、阿伏兎は面倒くさそうな顔を向ける。
「私は真面目に聞いてるの!」
「俺だってマジメだ。何か異論があるか?」
「だって、胸とかお尻とかって……」
 消え入りそうな声でぶつぶつ言いながら、顔を赤らめてもじもじしている。どうやら自分のプロポーションに自信がないらしい。
「心配すんな。団長は別に普通サイズで満足、」
「うるさい!」
 慰めたつもりが逆に殴られた。これだから女と言うのは面倒くさい。
 だが、そう思いつつもの悩み相談に乗ってやる阿伏兎は、見かけに反して紳士なのだろう。
「で、何だやぶから棒に」
 ポンポンと自分の隣を叩いて座るように促すと、は拗ねたような顔をしながらも素直にそれに従った。こういう所は年相応に可愛らしいのだが、どうにも凶暴なのが困る。……もっとも、それは夜兎全般に言えることかもしれないが。
「べつに、何ってわけじゃないんだけど……」
 その割には挙動不審なまでに目がせわしなく泳いでいる。団長か? と尋ねると、図星なのかはびくりと肩を震わせた。
 驚いたような顔で見返してくるが、それ以外にがそんな事を聞いてくる理由が思いつかない。
「なんだ? 団長に何か言われたか?」
「そうじゃないんだけど……。神威、提督になったでしょ?」
 ああ、と阿伏兎は曖昧に相槌を返す。
 先日、春雨内部の抗争で勝ち、神威は晴れて第七師団の団長からバカ提督に昇進していた。もっとも誰一人そんな肩書きを気にする者はいないので、そういえばそんな事もあったかという認識程度だ。
 それが何だ、と視線で先を促すと、は言いにくそうに顔を俯かせて答える。
「私はただの構成員だから……釣り合わないかなって」
 おそらくその時阿伏兎は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔を晒していただろう。てっきり神威に下らない冗談でも言われたのかと思っていたが、まさか自身がそんな事を自発的に気にするとは。
 だが、阿伏兎の驚きに気づかずは膝を抱えるようにして、不安げな表情で続ける。
「立場だけじゃないの。神威強いし、一応顔はいいし、ああ見えて女の子から人気あるし……私、大丈夫なのかなって」
 それで、いい女の条件を聞いて来たと言う訳か――――
「時々、不安になるの。私、神威の側にいていいのかな。ちゃんと神威と釣り合った――――わっ!」
 無意識のうちに阿伏兎は大きな手のひらで、の頭をぐりぐりと撫で回していた。
「ちょっ、何する、」
「可愛いな、お前さん」
 抗議の声を遮って阿伏兎は素直な感想を漏らす。
 予想外の阿伏兎の言葉に、は不覚にも動揺し、顔を赤らめた。
「なっ、なんっ、何言って……」
「いやぁ、可愛い所があるじゃねーかと思ってな」
 それに世辞をいう趣味はない。素直にの不安やそれを抱えて悶々とする様が、可愛らしく映っただけなのだ。
 阿伏兎はにやにやと笑みを浮かべながら、脳裏に神威の顔を思い浮かべた。
 もしがこんな不安を感じていると知ったら、あの無敵の提督はどんな顔をするだろう。驚くか、笑うか、それとも当然だよとしたり顔でもやってのけるか。
 ともかく、彼を有頂天にし、喜ばせる事には他ならない。
 なぜならの不安に反して、神威のへの耽溺っぷりは近くで見ている阿伏兎が一番よく知っている。立場だとか容姿だとか、そんなものは神威の愛情を遮る柵にすらなりはしないのだ。あの強引で傲慢で、自分勝手で、そのくせ一途な愛情の前では、そんなものは障害にすらなりはしない。
 そんなものを気にするなんて、なんとも可愛らしいじゃないか。
 阿伏兎は口元の笑みを深めると、再びの髪をぐしゃぐしゃと撫で回した。
 神威には絶対に言わないでよ! などと目を吊り上げて言っているが、はてさてどうしたものか。
 阿伏兎はの頭を撫で回しながら、にやりと笑って見せる。
「心配しなくても、アンタはじゅーぶん可愛くていい女だよ」




end


なんかヒロインが幼い。