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苦手ナモノ





「ねー、さん。さんってば」
 自分の名を呼ぶ声にうんざりしながら、はなに? と振り返った。
 夕焼けの差し込む渡り廊下でのこと。委員会の仕事で遅くなり、もう帰ろうとしていたところを、妙な人物に引き止められた。
 折原臨也。今年入学した新人の二大問題児のうちの一人だ。
 にこにこと妙に上機嫌な顔。そうして笑っていればひどく整った顔をしていてさぞモテるだろうに――――性格に難があるのが玉に瑕。もっとも見かけの良さに騙されて、ころっといってしまった女子がすでに何人かいるらしい。そして案の定、臨也にこっぴどい扱いを受け、の元へ泣きついて来る事もしばしば。
 そういった噂やら事実があるためか、は若干この後輩を苦手としていた。
 だと言うのに、なぜかあちらはのことを気に入っている。臨也やもう一人の問題児である平和島静雄に対してまったく物怖じしないのがいいのだとか。
 嬉しくない人気だ。
「私もう帰るんだけど。用件は手短に」
「じゃ、手短にしましょう。さんの苦手なものってなに?」
 あんたよ、と言いかけては口を噤む。そんな相手を喜ばすことを言ってどうするのだ。
 なんで? と問うと、臨也は妙に嬉しそうに笑い、
「野暮だなぁ。好きな人のことは何でも知りたいって思わない?」
「好き? 誰が? 臨也が?」
 一体なんの冗談だ、と一蹴したが、臨也はめげない。ねえ、教えてよ、としつこく後ろを付いて来る。
「嫌よ。だって臨也に弱みを握られることになるじゃない。それで私のこと、脅すんでしょ?」
「まさか。そんな詰まらない事に使ったりしないさ」
 そう、たとえばね――――
 臨也がおもむろに笑んだかと思うと、あ、との足元を指差した。
 そして、
「トカゲ」
「いやぁっ!」
 は咄嗟に叫び声をあげ、足を退いた。と、ちょうど真後ろに立っていた臨也にぶつかり、そのまま腰に腕を回される。
 なっ、と言葉を失った瞬間、臨也はにこりと微笑み、
「嘘だよ」
 はめられた――――
 足元にはトカゲの影などなく。そもそも、臨也は用意周到にの弱点を知っていながら、本人に聞いたのだった。
「そう。こういう感じに使うつもり」
 満足そうに笑って、臨也はの身体をぎゅうと抱きしめた。
「……離してよ」
「嫌だね。もう少しこのまま」
 まんまと罠にはまったのが、何とも悔しい。
 ならば、とは臨也の背後を指し、
「あ、静雄」
「きかないよ。そんな嘘ついたって――――
 と、呟いた瞬間、廊下に設置されていたゴミ箱が臨也の頭部めがけて飛来した。はさっと臨也の腕から逃れると、今にも暴れだしそうな金髪の青年を見やる。
「てめぇぇぇぇ、臨也ぁぁぁ! 先輩に手ぇ出すなってあれほど言っただろうがぁぁ!」
 さすがに本物の登場に驚いたのか、臨也はやだなぁと顔を引きつらせて静雄と対峙する。
 風紀委員としては止めるべきなのだが――――あの二人の喧嘩の間に入って、生きて帰れる自身がない。
「ま、これでおあいこだよね」
 は独り手を振ると、そそくさと帰路を急ぐのだった。



end


対臨也はちょっと苦手なくらいがちょうどいいと思う。
苦手なもの爬虫類とGのどっちにするか悩んで、前者にしました。