メモリー・ロスト 06
『それで行かせたのか?』
話をあらかた聞き終えてから、セルティはPDAを新羅の前に突き出した。
「まあ、仕方なかったんだよ。医者としては一日くらい安静にしていた方がいいと言ったんだけどね、あれがないと死んじゃう、ってそりゃあ半狂乱で」
裸足で出て行こうとするを無理矢理押しとどめ、二時間探したら必ず戻ってくると約束させるのに三十分。
『静雄に付いていかせたのか』
「まあ、そりゃあね。こんな時間に女の子の独り歩きは危険だし、静雄だって責任感じてないわけじゃないだろからさ。俺が言い出さなくても、ああ見えて静雄はフェミニストだから、ちゃんに付いていったと思うよ」
『ちゃん?』
「ああ、一応先輩なんだけど……彼女を見てると、どうも年上って気がしなくって」
『静雄にとっては、もっとそうだろうな』
新羅の言葉の通りなら、その逆涙という女性は、まるで行方不明になった当時のままの姿で神出鬼没に現れたのだ。
十七歳の少女のまま――――変わらない姿で。
あり得ないと思う。きっと、高校時代の思い出が強すぎて、新羅や静雄がそう思いこんでいるだけなのだろうと。
だが、聞けば聞くほど不可解なこの事件には、そういう奇妙な出来事が起こり得るような気がしてしまうのだ。まるで、神隠しにあった少女が時空を超えて戻ってきた――――そんな出来事が。
『家の人には?』
セルティが尋ねると、新羅は静かに首を振った。
「先輩が居なくなってから、引っ越しちゃったみたいで足取りが掴めないんだ。それに……」
言い難そうにしながら、新羅は傍に置いたのバッグを見やった。
「本人が知ったら興奮させると思ってさっきは黙ってたんだけど……」
セルティがバッグのファスナーを開けると、漆黒の塊が隙間から覗いていた。手を入れてその硬質な感触に、思わず手を引っ込める。
『し、し、新羅! これは……!?』
「拳銃だよ。他にもナイフとか、スタンガンとか出てきた」
『まさか、本当に悪の組織と戦うつもりなのか?』
冗談ならば、新羅は笑っただろう。だが、新羅自身が茶化したその言葉が、今は奇妙な現実感を帯び始めている。
「そもそも出来すぎているよね。行方不明だった女の子が、記憶を失くして戻ってくる――――しかも、あの静雄の前に」
『誰かが仕組んだと言いたいのか?』
セルティの問いに新羅はうーん、と顔をしかめて見せる。
「ベタベタな展開どおりなら、本当に悪の組織とかが仕組んだんだろうけど……。まったく空想小説みたいな話で逆に五里霧中だよ」
『折原臨也がかかわっている可能性は?』
「ゼロとは言い切れないね。でも、臨也が静雄を貶めるのに他人をダシにしたりするかなあ?」
『すると思う。武器になるなら、なんだって利用すると思うぞ』
セルティの素直な感想に、新羅はクスリと笑みを零した。
「……ま、否定はできないよね。ただ、ちょっと引っかかるのは……どうして先輩だったんだろう」
『……? 静雄が惚れていたからじゃないのか?』
「それはそうなんだけど……イザヤだって、彼女の事は……」
呟きかけて、新羅は自分の考えを振り払うように首を振った。
「ともかく真実を知るには、誰かが用意したこのベタベタな展開をそのまま突き進んでいかないといけないってことさ。たぶん、今頃なにか展開が、あると思うんだけどね」
『まさしく五里霧中か――――』
end
記憶喪失で神隠し。ついでに銃刀法違反も追加されました。