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メモリー・ロスト 03





 は長い黒髪の似合う美少女だった。
 容姿端麗。学業優秀。スポーツ万能で、そのうえ人望も厚い――――およそ現実らしくない完璧人間。それがだった。
 年は静雄や臨也の一つ上で、来神高校時代の先輩にあたる。
 性格は子供っぽいが人懐っこく、来神高校最悪の問題児と名高き静雄や臨也とも、気さくに話をできる数少ない人間である。
 制服の右腕にいつも風紀委員の腕章を付けており、トラブルの度に二人と顔を突き合わせていたので、それで仲良くなったのだと言う。この学校で唯一、静雄と臨也の喧嘩の仲裁に入れる人物として、彼女の名は有名を通り越して一種の名物になっていた。
 そんな彼女に恋をした。
 あの魔神のような男が――――と、静雄の凶暴性だけを知る者達は恐れ戦くだろうが、それは至極自然な流れだった。
 初めは鬱陶しく感じていた静雄も、顔を合わせるごとにの心根を知り、徐々に心を開いていった。
 子供っぽいくせに時折年上ぶる彼女を、ころころ表情が変わり感情豊かな彼女を、悪いものは悪いとちゃんと叱ってくれる彼女を――――静雄が心のどこかで支えとし、次第に惹かれていったのはごくごく当たり前の事だったのだ。
 人生において幾度目かの恋。
 だが、恋をする度に力を暴走させ傷ついて来た静雄は、なかなかその想いを打ち明ける事ができなかった。
 もし、彼女の側にあのノミ蟲が――――静雄の天敵にして、人類の敵と信じて疑わない折原臨也が存在しなければ、もしかしたら静雄は永久に想いを伝えることはなかったかもしれない。その気持ちを抱く事だけで、満足してしまった可能性は十分あり得た。
 だが、臨也の存在が幸か不幸か、静雄の恋心を焦らせる結果となった。
 何かと現れては要らぬちょっかいを出す臨也に苛立ち、そして同時に焦りを覚えた。
 もし、静雄がもたもたしている内に臨也に横から攫われてしまったら――――それを思うといてもたってもいられなかった。
 だから、あの日――――屋上で彼女を待った。
 軽やかな足音が階段を昇るのを聞き、屋上のねずみ色の扉が重い金属音をさせて開くのを待っていた。
 彼女は現れた。
 振り返り、話って? と訝る彼女と顔を合わせる。
 夕焼けの光がなければ、静雄の顔が真っ赤に火照っているのがばれてしまったに違いない。
 静雄は強く手を握り締めて、を見つめた。
 そして、
「俺と、……俺と付き合ってくださいっ!」
 これが数年前のある放課後の出来事。





「しかし、静雄少年の想いも空しく、彼は無残にもフラれてしまいました。めでたしめでたああああああ、痛い!」
 ぎぎぎぎ、と耳がちぎれんばかりに引っ張られて、新羅は悲鳴を上げた。
 事実ではあるが、他人の口から語られると腹が立つ。しかも、まったく関係のない第三者にまで知られているというのも、尚更気に入らない。
 どこの誰が――――どうせあのノミ蟲のせいだと思うが――――そんな事をしたのか知らないが、静雄撃沈の噂は瞬く間に校内に広がっていった。
 しかも、噂は尾ひれがつき、静雄が脅して交際を迫ったとか、フラれた腹いせに屋上のフェンスを引きちぎったなどと語られる事になった。
 フラれた事は言い訳しないが、完全に誤訳されている失恋話に当時はかなり腹を立てたものである。気まずくてと顔を合わせられない上に、こんな噂を立てられて、さぞかし先輩に迷惑をかけた事だろうと、静雄が凹んでいる時、その話は飛び込んできた。
 ――――行方不明になったと。



end


来神時代の馴れ初め。
しっかりフラれてます。